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夜は深く、部屋の中は行灯の明かりだけが揺れていた。畳に落ちる影が、二人分、ゆっくり重なる。
甚爾が腰を下ろしたまま黙っているのを見て、直哉はわざとらしく溜息をついた。
直「……なあ、甚爾くん」
名前を呼ぶ声が、妙に甘い。
普段より少しだけ、音を引き延ばす。
直「さっきから何黙っとるん? 眠いんやったら、俺一人にして帰ればええやん」
そう言いながら、直哉は一歩近づく。
畳を踏む音を、わざと大きく。
直「それとも……帰りたない理由、まだ隠しとる?」
甚爾の視線が上がる。
鋭くて、じっとこちらを射抜く目。
直哉はその視線を真正面から受け止めて、にや、と笑った。
直「その顔やめてえな。 そんな目で見られたら、勘違いしてまうやろ」
言葉とは裏腹に、距離を詰めるのをやめない。
膝が触れそうなところまで来て、直哉はしゃがみ込む。
下から覗き込む形。
挑発する角度。
直「……なあ」
声を落とす。
行灯の光が、直哉の睫毛の影を濃くする。
直「俺がここにおるの、嫌?」
甚爾はすぐに答えない。
沈黙が、妙に生々しい。
直「ほら、また黙る」
直哉は小さく笑って、甚爾の着物の袖を指先で摘まむ。
引っ張らない。
ただ、存在を知らせるだけ。
直「なあ、甚爾くんってさ」
指先が、布の上をなぞる。
ほんの一瞬。
直「俺が煽っとるって、わかっとる?」
その瞬間、手首を掴まれた。
強くもなく、逃がさない程度。
甚「……調子乗んな」
低い声。
抑えた響き。
直哉の喉が、こくりと鳴る。
でも、目は逸らさない。
直「へえ」
口角を上げて、わざと息を近づける。
直「効いとるやん」
その一言で、空気が一段階重くなる。
掴まれた手首から、熱がじわじわ伝わってきて。
直哉は逃げない。
むしろ、少しだけ身を乗り出す。
直「なあ、甚爾くん」
囁き声。
秘密を打ち明けるみたいに。
直「俺が本気で煽ったら、どうなると思う?」
答えは返ってこない。
ただ、掴む指がわずかに強くなった。
それだけで、十分だった。
直哉は満足そうに笑って、ゆっくりと手を引く。
直「……今日はここまでや」
立ち上がり、背を向ける直前、振り返って一言。
直「続きは、甚爾くんの覚悟次第やな」
行灯の光が揺れて、影が離れる。
残されたのは、言葉と熱だけ。