テラーノベル
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血の匂いが濃かった。
ドライは瓦礫にもたれかかり、荒い呼吸を繰り返していた。腹部を貫かれた傷からは止めどなく血が流れ、誰が見ても助からない状態だった。彼のそんな姿は見たことがなかった。
そんなドライの前に、カゲチヨが膝をつく。
「ドライ!!今、手当てを——」
「無駄だよ。」
ドライは弱々しく笑った。
「スライムの俺でも分かります」
カゲチヨは何も言い返せなかった。
ゾンビと吸血鬼、その二つの血を持つカゲチヨじゃなくても、誰が見てもわかる。ドライの命の灯火は、もう消えかけている。
「……カゲチヨ」
「……」
「俺、カゲチヨの役に立てたかな?」
その言葉に、カゲチヨは顔をしかめた。
「….当たり前だろ」
「よかった」
ドライは本当に安心したように目を細める。
「なら、ひとつだけお願いがあるんだ。」
嫌な予感がした。
「嫌だ」
「まだ何も言ってないじゃないか」
「お前のお願いなんて大体ろくなものじゃないだろ」
ドライは少しだけ笑い、咳き込んだ。
赤い血が口元を濡らす。
「俺を、眷属にしてほしい」
カゲチヨの表情が固まった。
「……駄目だ」
「お願い」
「駄目だ」
「少しでもカゲチヨの役に立てる可能性があるなら、」
「……失敗したら」
「失敗したら、死ぬだけだよ」
ドライは真っ直ぐカゲチヨを見た。
「でも成功したら、もっと君の役に立てるかもしれない」
カゲチヨは視線を逸らした。
眷属化の実験。
まだ誰にも試したことがない。
吸血鬼の力とゾンビの力がどう作用するか、自分でも分からない。
「お願い..カゲチヨ」
ドライの声はかすれていた。
「どうせ死ぬなら、最後までカゲチヨの力になりたい」
その言葉が、カゲチヨの胸を刺した。
長い沈黙の末。
カゲチヨは目を閉じる。
「……どうなっても知らないぞ」
ドライは笑った。
「うん」
⸻
最初は成功したように見えた。
傷は塞がり、止まらなかった出血も止まった。
顔色も戻った。
ドライは目を開き、カゲチヨを見て笑った。
「生きてる」
カゲチヨは心の底から安堵した。
⸻
異変が起きたのは数日後だった。
「ドライ?」
「……はい」
返事が遅い。
口調もおかしい。
ぼんやりしていることが増えた。
さらに数日。
笑わなくなった。
さらに数日。
自分から会話しなくなった。
さらに数日。
「大丈夫か?」
「大丈夫です」
そう答えるだけ。
表情がない。
⸻
ある日。
「ドライ」
「はい」
「好きな食べ物は?」
沈黙。
「……分かりません」
カゲチヨの背筋が冷えた。
ドライはカップ焼きそばが好きだった。
毎日のように食べていた。
それすら思い出せない。
⸻
日に日に、自我は削られていった。
記憶。
感情。
趣味。
夢。
全部が消えていく。
残ったのはただ一つ。
カゲチヨへの絶対服従だけだった。
⸻
「ドライ」
「はい、主」
その呼び方になったのはいつからだっただろう。
カゲチヨは分からなかった。
「お前は誰だ」
ドライは瞬き一つしない。
「主の眷属です」
「違う」
カゲチヨの声が震える。
「….っ名前だよ」
沈黙。
長い沈黙。
やがてドライは首を傾げた。
「……….名前?」
知らない言葉を聞いたような反応だった。
カゲチヨは目を閉じる。
失敗した。
助けたかった。
生かしたかった。
なのに。
目の前にいるのはドライの姿をした何かだ。
「……命令を」
ドライが言う。
「次の命令をお待ちしています」
その瞳にはもう何もなかった。
ただ命令を待つだけの人形。
かつて、自分のために命を懸けた仲間の成れの果てだった。
カゲチヨは何も言えなかった。
ただ静かに俯く。
そしてドライは、その命令を永遠に待ち続けた。
#バッドエンド?
コメント
1件
あっ、、、読んでて胸がギュッてなった😭💔 「名前?」って首傾げたドライに一番グサッときたよ…。 助けたくて眷属にしたのに、自我を全部削って“主の眷属”だけになっちゃうの、切なすぎる…😢 カゲチヨの「どうなっても知らないぞ」って決断の重さも響いた。 この先どうなるのか気になりすぎる、続き待ってます🌸