「よしっ。じゃあ透子行こっか」
約束していた翌日。
最近お互い忙しくてなかなか休日も合わなくて一緒にいられなかったから、今日一緒に過ごせることで、すでに透子は喜んでいる様子。
透子はきっと何気ない普通のドライブデートだと思っているみたいだけど、オレにとっては、この日はずっと前から心待ちにしていた日。
ずっと忙しくしていたのも実はこの日の為に時間をずっと費やしていたワケで。
ようやくこの日を迎えられたことで、オレはいつも以上にワクワクして透子以上にきっと嬉しさが止まらない。
「いいね。こんな天気のいい日のドライブデート」
空気のいい場所に差し掛かると、透子は車のドアを開けて自然の風を感じて気持ち良さそうにしながら嬉しそうに言う。
「でしょ? 今日は一日透子にとってもオレにとっても特別な一日にしたいからさ」
「そうだね。こうやって一緒に休日に出掛けるのも久しぶりだし、なんか特別な日になりそう」
「きっと最高に特別な日になるよ」
「ホントに?(笑)」
「まぁ楽しみにしといて」
きっと透子は想像もしてない一日になるはずだから。
こんな風に隣に透子がいてくれて、同じ空間で同じ景色を見て同じ時間を過ごせるだけで幸せだけど。
でも一緒にいる以上、オレはもっと透子に幸せをあげたいから。
オレしかあげられない幸せ。
オレしかあげられない特別な時間。
今日一日透子にとって最高に幸せな時間をたくさんあげるから。
「着いたよ。透子」
そして今日の目的地である場所へ到着し、車を停める。
「ここ? 連れて来たかった場所って」
「そう。一緒についてきて」
辺り一面緑が広がる静かなその場所。
初めて透子を連れて、奥の方まで足を進める。
「ここは?」
そしてある建物の前で立ち止まったオレに透子が尋ねる。
「オレん家の別荘」
「別荘!?」
ここはいつか透子を連れて来たかった場所。
「すごいね・・・」
そしてしばらくその建物を眺め静かに驚いている透子。
「そっ? ホントはもっと早く連れてきたかったんだけど、なかなか時間合わなくて」
オレが小さい頃に何度か来ていたこの別荘。
唯一親子三人、同じ場所で静かにゆっくりとした時間を共有出来た場所。
普段は忙しい父親とほとんど家では同じ時間を過ごした記憶も少ないけど、でもこの別荘で過ごす時間だけは、何も話さなくてもすぐ近くに親父の存在を感じれた貴重な時間だった。
「どうぞ。入って」
別荘の扉を開けて中へ入る。
「ようこそ。透子さん」
「あっ。お義母さん。お久しぶりです」
そして中から母さんが姿を見せて、透子も挨拶をする。
「こんな素敵な別荘にお邪魔するなんて樹さんから聞いてなくて、何も用意してなくてすいません」
「いいのよ。そんなことは気にしなくて。今日のことは透子さん知らなくて当然なんだから」
「えっ?」
相変らず真面目な透子に対して、母さんが返した言葉に一瞬透子が反応をする。
さっ、ここからは母さんにまずは任せようかな。
「透子さん。ちょっと見せたいモノがあるの。一緒に来て下さる?」
「あっ。はい」
別荘のある部屋へと向かって歩く母さんの後ろを、透子と一緒に着いていくと。
「透子さん。ちょっとここで待ってて」
その部屋の中へ入って、あるモノを手に取り戻って来た母さんが透子にそのケースを差し出す。
「これは?」
「開けてみてちょうだい」
そのケースを透子が手に取りフタを開ける。
「うわぁ・・綺麗・・・」
中に入っていたダイヤが連なっている華やかなネックレスを見て透子が呟く。
「それ。透子さんへ私からの贈り物」
「えっ!? 私にですか!?」
「私から結婚のお祝い。もう1年も経ってからで申し訳ないんだけど」
「いえ! とんでもないです! そんなの逆にこちらの方が申し訳ないです!」
「そのネックレス今日の為に私がデザインして特注で作ったモノなの」
「えっ? 今日・ ・・?」
その言葉に不思議そうに反応する透子。
「透子。この部屋開けてみて」
「ん? この部屋?」
さぁ、透子はどんな反応してくれるだろう。
今日はここで起きるすべての時間がオレからの贈り物。
「透子。随分遅くなったけど、今日オレたちの結婚式しよ?」
オレは今日ここに連れて来たホントの目的を透子に告げる。
「えっ・・・? 結婚式・・・?」
だけど透子はその言葉に、思った通り驚いた顔をしている。
「そう。これ透子の為に用意したから。今日は透子が主役」
主役の透子の為に用意した今日のすべて。
そして部屋に飾ってあるウエディングドレスを見て、そのまま見つめ続ける透子。
透子からは決してこういうことやりたいとはきっと言わないから。
いつかどれだけ時間がかかっても、オレが絶対叶えてあげたかった。
ウエディングドレスを着た綺麗な透子を、それを着て幸せそうに笑ってくれる透子の笑顔を絶対オレが見たかったから。
いつでもオレを想って、自分のことのようにオレを心配してくれて支えてきてくれた。
いつも自分より周り優先で、オレ優先で、自分の幸せは後回し。
そしてそれをきっと透子は当たり前だと思っている。
本当は透子が自分を優先して幸せになれる時は、いつだってあったはずなのに。
だから、そんな透子に今オレから伝えられる想いを送りたい。
今日は誰よりも透子が幸せになってほしい。
誰の為でもなく、透子の為に。
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