「でも結婚式ってどこで?」
「ここで」
「ここ?」
まぁそりゃいきなり別荘連れて来てここで結婚式って言われてもピンと来ないか。
「そう。まぁ透子は心配せずに準備してくれたら大丈夫。準備出来たらここで結婚式しよ」
「ここでなら私たちも気兼ねなく式に出席して二人お祝い出来るから。ぜひここでしてもらえたら嬉しいわ」
母さんも透子に安心するように伝える。
「親父ももうこの別荘にいるし出席するから」
「わかった」
そんなオレたちの言葉に優しく嬉しそうに笑って答える透子。
そしてドアをノックする音が聞こえる。
さっ、透子へのサプライズはまだまだこれから。
「どうぞ」
返事をすると、ドアを開けその人物が顔をのぞかせる。
「透子」
「えっ? 美咲!? なんで!?」
「透子お祝いしに来た。そんで、透子を綺麗にしに来た」
「美咲さんに今日の透子のヘアメイクお願いしたんだ」
「えっ? 美咲も呼んでくれたの?」
「もちろん」
今日はすべて透子へのサプライズ。
透子にとってきっとこれが一番喜んでくれるはず。
「樹くんにね。実は私がお願いしてたんだ。もしいつかそういう機会があれば透子のヘアメイクさせてほしいって」
「美咲さん、まさか美容師免許持ってるって知らなかったからビックリした」
「あっ、そうなの。修ちゃんとあのお店やる前は実は美咲、美容師として働いてて」
透子がいない時、美咲さんに直接そう言われて。
それって透子もきっと喜んでくれるだろうなって思って、この結婚式を考えた時に、すぐに美咲さんにお願いした。
「昔はブライダルのヘアやメイクもしてたからさ。親友としていつか透子も私の手で綺麗にしてあげたいなぁって実は思ってた」
「随分ここまでかかっちゃったけど(笑)」
「でもここまで待ったからこそ最高の相手と出会えたんじゃん」
美咲さんにそう言ってもらえるのがすごく嬉しくて。
「ホントそうだね」
そして透子も嬉しそうに同じようにそんな風に言ってくれる。
「じゃあ、美咲さんよろしくお願いします。オレたちは下で式の準備しとくんで」
「了解。綺麗になるの楽しみにしといて」
そうお願いして部屋を出る。
誰より透子のことを知っている美咲さんなら、きっと最高に綺麗にしてくれるはずだと、オレはもうこの後のことを想像して、ワクワクする。
そしてオレもタキシードに着替える為に部屋を移動する。
「いっくん。待ってたよ」
「お待たせ。麻弥。今日はありがとな」
「こちらこそ作らせてくれてありがと」
部屋で待機してくれていた麻弥に今日のお礼を伝える。
「はい。これ、いっくんのタキシードね」
「サンキュー麻弥。ウエディングドレスも無理言って頼んでごめんな。どうしても今日に間に合わせたくて麻弥には急かすことになっちゃったけど」
「全然大丈夫。私も自分で作ったウエディングドレス絶対透子さんに着てほしかったし。ていうか、お願いしてくれて嬉しかった」
麻弥が照れくさそうに嬉しそうに笑って言う。
今こうやって麻弥と昔のように笑い合えるようになってホントによかった。
麻弥はオレにとって妹のように大切な存在だったし、正直麻弥を傷つけることになって胸が痛かった。
だけど、あれから少し経って、麻弥にも運命的な相手が現れて、あっという間に結婚したのにはビックリした。
結婚相手がデザイナーっていうのもあって、麻弥も今ではウエディングドレスのブランドを立ち上げて、その業界でも活躍して夫婦揃って今では有名人だ。
「透子には試着の時点で怪しまれなかった?」
「あっ、それ心配ないよ。透子さんの今のブライダルの仕事柄、その仕事でも使うドレスと同じように準備したし。いろんなサンプルを取りたいって伝えたら透子さんも快く引き受けてくれた」
「その時透子の理想も聞きだしてくれたんだっけ?」
「そうそう。さり気なく透子さんならどういうのが着たいかとか参考や資料のアイデア的に意見もらってたからそこはバッチリ」
「ならよかった」
「透子さんさ、その時はお仕事の一環だったけど、やっぱりいざ出来たドレス試着した時さ、すごく感動してくれてて。その綺麗な姿も喜んでる姿もいっくんに見てほしいなって思った」
「うん。透子は今まで一言もそんなこと言わなかったから、きっとそれは自分の中で期待もせず望んでもいないのかもね。でもさ、今より透子をもっと幸せに出来るカタチの残るモノは何かって考えたら、皆に祝福してもらえる結婚式を挙げることだったんだよね」
透子は今新しいプロジェクトでブライダルの仕事を任されていて。
意識しなくてもきっと意識している瞬間はあったはずで。
決してそれを口にしないのが透子だけど、でも女性としてもっと綺麗で輝いている姿を、オレはもっともっとこれからも見ていきたい。
透子が喜んでくれるなら、オレは何だってしてあげたい。
透子が幸せだと思ってくれるなら、オレはどんなことでもする。
透子の為に頑張ることは、オレの何よりの幸せだから。
「透子さんの為に作ったウエディングドレスだけどさ、あれはホント透子さんしか着こなせくらい素敵だからホント楽しみにしといて」
「うん。ありがとう麻弥」
何か月も前から麻弥にお願いして特別に用意してもらったドレス。
この結婚式を計画してきた時から、まだ見ぬそんな素敵な透子を想像しては胸がいっぱいになって。
いざあと少しでその姿を見れると思うと、急に緊張し始める。
麻弥が部屋を出て行った後、用意してくれたタキシードに袖を通すと、ようやく自分でも実感して身が引き締まる思いになる。
それからしばらくして美咲さんから透子の準備が出来たと連絡が入り、オレは透子がいる部屋にまた向かった。
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