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緑目線
厨房に運ばれる食材。
慣れた手付きで逆さに吊るす。
うめき声。
もう何も思わない。
迷わず包丁を滑らせた。
シーツとは違い、タイルでできているここはとても掃除がしやすかった。
“これは大きな墓石なんだ”と、フィルトレはいつしか教えてくれた。死を望み、ここで命を無くした者達は安らかに眠れているのだろうか。
……俺が願っていいものじゃないか。
誰もいないはずの扉を開くと、まるでここが唯一の居場所だというように、フロントカウンターに腰掛けているヤツがいた。
「お久しぶりです。」
「シャークん、さん?なにかお忘れ物でも?」
「まぁ…そんなもんっすね。」
洪水なんてなかったように咲き誇る紫陽花。
妙な感覚がする浮世離れしたホテル。
凄惨な光景を思い出す。
俺はここで償わなければならない。
フロントまで向かい、愛刀を喉元に当てた。
「しゃ、け…?な、なにを…」
「ん〜…贖罪……かな。」
青いホテルに赤い飛沫が舞った。
目の前に立っていた彼にも鮮血が飛び散る。
こんな状況なのに、こんなものを美しいと思ってしまう自分が憎い。
すっかり毒されてしまった。
「な、にっ…してんだよっバカ!」
首元から心拍に合わせてごぼごぼと血が溢れてゆく。
「死なせない。」
「ま”たっ….ぁ”える、んだ、よな…なかむ……」
「必ずっ!絶対にみつける!!」
ポタポタと室内なのに雨が頬を濡らす。
首元の燃えるような熱さもなくなり、徐々に身体が冷たくなっていく。
もう手足を動かすことすらままらない。
床に溜まった血液が温かくて心地よい。
眠くて眠くて、目を閉じた。
最期に残った聴覚でカチリと音が聞こえた。
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