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昼からの予約のお客様も、悠人に会うとみんなニコニコして、久しぶりに恋人に会ったような乙女の顔になる。悠人も、お客様を彼女みたいにおもてなしして。こんな風に、最高の癒しの時間を提供できる美容師になりたいって、最近、ますます思う。
そう思えるようになったのは、全部、悠人のおかげだ。
「穂乃果さん。さっさとシャンプー入って」
梨花さんの声にビクッとした。
気が立ってる?
アシスタントのこと、やっぱり……
明らかに腕のある梨花さんじゃなく、悠人は私を選んだ。
嬉しいけど、どうして?って……みんながそう思ってるだろう。
その日の仕事終わり、2人きりになった時、梨花さんが私に言った。
「悠人さんのアシスタント。あなたはセンスを認められたわけじゃないのよ。センスで言えば私の方がずっと上。なのに……」
悔しそうに唇を噛む梨花さん。
「あの、私、梨花さんのセンスはすごいと思ってます。今回、悠人さんが私をアシスタントにしたのは、ただ未熟な私に勉強させようと思ってくれただけだと思います」
「悠人さんの親戚だから優遇されてるってわけね。でも決して認められたなんて調子に乗らないことね」
梨花さん、怖い。
そんな鋭い目をしないで……
最近の梨花さんは、私に対して敵意をむき出しにしてる気がする。
最初は、優しくしてくれてたのに、悠人のことになると本当に容赦なくキツイ言葉がぶつけられるらようになった。
今は、梨花さんのことが少し苦手な存在になってる。
「悠人さんのアシスタントとして、しっかり頑張ります。勉強させていただきます。失礼します」
私は丁寧に頭を下げて、すぐに帰った。
何だかどっと疲れてしまった。
それでも、悠人に渡された資料に目を通して必死に勉強した。悠人のアシスタントとして、失敗しないよう頑張りたかった。
せっかく、私を選んでくれたんだから……
美容学校の頃は、まさか自分がアシスタントとして生徒に教える立場になるなんて思いもしなかった。
みんなの憧れの講師とアシスタント。
特にあの頃は、悠人の存在に周りの女子がいつも色めきだっていた。
でも、私は、悠人をちょっと怖いと思ってた。
もちろん、素敵だと思ってたけど、遠くから見ていられたら……それで全然良かった。
いわゆる恋愛感情のない憧れ――
美咲は、結構、ちゃんと好きだったみたいだけど。
イケメンでお金持ちでクールな先輩に告白することは、相当勇気のいることだったと思う。
あの美咲でさえ、最後はあきらめていた。
手の届かない本物の王子様。
その人が今、私のすぐ近くにいるんだから、本当に人生何が起こるかわからない。