side.Kt
「あ、快速列車行っちゃったね…」
「次の快速は30分後……普通で行くか」
「そうだね」
離れ離れの街を繋ぐ列車はとうに行ってしまった。たまにはゆったり行くのもまた良いものだろう。
列車が来るまでの間、僕とまぜちは喋らなかった。どこか気まずくて繋いだ手の中に切符を握りこんで、ポケットに入れた手をずっと見つめていた。
「2人でどっか行きたいなぁ…」
「いきなりだな、ほんとに」
きっかけは僕の独り言。重いしがらみのような日常から逃げ出したくて、どこかに行きたくて。まぜちが調べてくれた海岸線に突発で行くことにした。
夕日の差すなか駅に2人で向かう。路地裏を通り、遠回りして。
「赤信号続きだな…」
「ね。なにかに阻まれてるみたい」
「物騒だな。ただの偶然だろ」
「そうだよね……」
まるで、信号が僕らのことを”待ってくれ”と言っているかのように。街角も僕らのことを引き止めているかのように思える。
「けちゃ?電車来たぞ」
「あ、うん。呼んでくれてありがとう」
海岸線に最も近い駅へ向かう普通列車が来た。乗り込めばちょうどドア横の2席が空いていたのでそこに座る。座った瞬間眠気が襲ってくる。うとうとしていたらまぜちの方に寄せられる。
「眠いならこれで寝な?起こしてやるから」
「あ、ありがとう……」
side.Mz
夕方、下校時間だからか駅には多くの学生や仕事帰りの社会人がいて混みあっていた。実は快速を逃したのも満員電車に乗らないためでもある。俺とけちゃの2人になるまで休んでいたくて。
車窓に流れる集団下校の小学生たちを流し見る。まるで”行かないで”と俺たちに言っているようだ。それだけでは無い。駅に着いたら必ず通る自動改札機も”待ってくれ”と言っているように見えた。
けちゃの手を繋ぎ、俺も列車の揺れに身を任せて俺も眠気に負けてしまった。
けちゃ、けちゃ。吹けば飛ぶような儚さと美しさの想い人よ。繋いだ手を離さないで。そうしなければ列車の風にも飛ばされてしまいそうだから。
君が恥ずかしがって言わない言葉を無理に言わせようとはしない。けちゃは俺に身を任せていて欲しい。
「けちゃ、もうすぐ着くよ」
「んぇ?まぜち?」
「おはよ」
すっかり夜になった外を見て降りる準備をする。扉が開いて無人の駅に2人で降り立つ。
「綺麗な星空…」
「そうだな。海にも星が反射して……」
「なんか全部どうでも良くなる気がするね」
「な…」
キラキラした目で星空を見つめるけちゃの横顔は儚くて綺麗だった。快速を逃して普通で来た甲斐があったものだ。
「たまにはこうやって旅するのもいいね」
「そうだな。夕焼けもだが星空もまた…」
「ね、綺麗…。まぜち、大好き」
「俺は愛してるよ」
意味もなく愛の言葉を囁いてしまう。たまには各駅停車で旅をしたいと思えるようになった。
曲パロ難しい!!!!
実はこっそりまぜけちゃラグトレイン待ってたりします。
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