この作品はいかがでしたか?
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「おい!また俺の漫画勝手に持っていっただろ!」
夕飯を終え、自室で漫画でも読もうと本棚を見た。
そしたら2段目の漫画が3.4冊ごっそりと抜かれていたのだ。
すぐに犯人は特定出来る。
一緒に住んでいるこの澄ました顔の男以外は有り得ない。
「良いじゃんか。続き気になったから」
漫画を読む手を止めず、視線さえもこちらに向けないで目の前の男はそう言った。
珍しく本なんか読んでるなと思っていたら、俺の漫画を勝手に持ち出していたとは腹が立つ。
男の横に置かれている2冊を拾い上げて、バッと男に右手を開いて差し出した。
「ダメ。返して」
「え〜、ケチ。漫画くらい貸してよ」
「お前に貸すと漫画が怪我して返ってくるから嫌だ」
「漫画が怪我って…しないよ、そんなの」
「してるんだよ!いっつもな!」
コイツに貸した漫画が無事に返ってきた試しが無い。
どこかのページが折れていたり、帯が少し破れていたり…本の間にお菓子の粉が挟まっていたり…。
前科がありすぎて、頭を抱える。
目の前の男はやっと顔を上げ、俺と視線を合わせた。
「はいはい」と気の無い返事をして、読んでいた本を手渡してくる。
ふんっと鼻を鳴らして、俺は本を棚に戻す為に自室へと戻った。
______
それからほんの10分程経った時、ガチャッとノックも無しに部屋の扉が開かれた。
「あのさ〜」
「おい!ノックは!?」
「何だよ。今更ノックとかいる?」
「普通にいるから!」
開いた扉の先には、もちろん先程のいい加減男が立っている。
傍にあった丸くて小さいクッションを男に投げつけたが、顔色1つ変えないで男は受け止めた。
___コンコン___
「はい。これで良いですか?」
「もう遅いわ、バカ」
扉にもたれかかって今更ノックされても、それじゃあノックする意味が無いだろ。
男は「ちゃんとやったじゃん」みたいな顔をして俺の部屋に足を踏み入れた。
「なんか用?」
「あのさぁ、今度家に彼氏連れてきて良い?」
___バクンッ
と心臓が壊れそうな音を鳴らした。
自分でも分かるくらいに顔が引き攣る。
嫌な汗が、つ…と背中を流れた。
「あー…ぇっと、いつ?」
「明後日」
「まっ、また急だな〜」
「うん、それはごめん。彼氏の仕事が急遽休みになってさ。1ヶ月ぶりだし、絶対会いたいんだけど…ダメ?」
この男は顔に感情が出にくいタイプだ。
そんな奴が薄らと頬を赤らめて嬉しそうにはにかんでいる。
彼氏とやらが本気で好きなんだと、誰の目から見ても一目瞭然だった。
「いや、ダメじゃないよ。分かった。俺、明後日は友達んとこ泊まるから」
「ほんと?良いの?」
ピンと立った耳と勢い良く左右に振られる尻尾が見える程に、目の前の男は目を輝かせて声を弾ませた。
ズキズキと疼く胸の痛みで変な顔をしてないか不安だ。
震えそうになる唇を1度グッと噛み締める。
「良いって言ってんだろ?あ。いつも通り、俺の部屋は立ち入り禁止だからな?」
「うん、分かってるよ。ありがとう」
『兄ちゃん』
あぁ、胸が痛い。
___END___
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