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「…本当は、戻りたい。お前の発言からは、そうとしか読み取れなかった。お前の思う“選ぶべき道”と言うのは、オレ達と共に居る事。“戻れるとは思っていない”と言うのは、戻りたいが戻れない、と言う後悔の現れ。…そう、感じたが?」
あぁ、君は本当に罪深い人だ。何故其処まで僕を引き留めようとする?いや、言い当てられた事実だけでそう考えるのも悪いかもしれない。僕はまた止まってしまったんだ、君達の遥か後ろに居る儘で。そっと目を逸らして、瞼を閉じる。落ち着くんだ、そうしなければ僕はすぐにでも暴れ出してしまいそうだから。本能は泣き喚いている。彼らと共に居たい、あの場所でもっとショーをしたい、と。でも仕方ないんだ、僕はもう戻れないんだ。僕には、あの場所を汚してまで戻れる勇気がない。そうだ、こんな事になるのならば辞めれば良かったのだ。もっと早くに。そもそも手を出さなければ良かっただけの話。何故こんなになるまで続けていたのかなんて分からない、ただ気付いたらまた新しいものに手を伸ばしていた。これが依存で、これが後悔。新しい感情が芽生える。
「あぁ…大正解さ。僕には、戻る資格がない。…勇気がない。この状態で、まともに君達と共に居られるなんて思えない。怖い、怖くて仕方がないんだ。あの場所を汚したくない、僕の所為で君達の手を煩わせたくない。全部、後悔だよ。」
柔らかい笑み。今浮かべるべきではないその表情には、諦めの感情が宿っていた。目の前の彼が手を離す。あぁ、今の空気はこんなに冷たいのか。それと同時に、手に持っていた液体の入っている真新しい注射器も彼に取られた。一瞬、彼の喉笛に飛びかかりそうになってしまった。馬鹿だ、流石にこれは駄目だ。知っている。これが駄目な事だって言うのも、僕が狂ってしまっているって言うのも。震える右手を抑えながら、彼を見上げる。瞬間、彼の言葉。
「…分かった。もう辞めにしようじゃないか。」
何を辞めにすると言うのだろう。この薬を?…それとも。それ以上は考えられなかった。考えたくもなかった。もしこれを酔狂と言うのなら、他にある馬鹿らしい出来事さえも無かった事に出来るのだろうか。何に酔っているかなんて知らない。この薬に、この馬鹿みたいな状況に、将又目の前の君に?なんて、こんな冗談を言っている時ではないけれど。先程からミリも変わっていないその思考を見ている内、その瞬間。硝子の割れる音が、路地に響いた。
「……は?」