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 アイリスディーナ・ベルンハルト王女。

 白銀の髪は肩で切りそろえ、切れ長の赤い瞳が綺麗な美人。整ったクール系の顔立ちだ。

 彼女は、学生である。そして結婚する予定の許嫁がいた。しかし本人はそれを不服に思っており、どうにか覆せないか考える日々が続いていた。


 そんな彼女に、姉から一通の手紙が届く。それはこの国の最高級機密で、国からの命令であった。家の為の結婚など話にならないレベル。しいていえば国家存続レベルの内容だった。


『光の帝国・星十字騎士団・先遣部隊統括狩猟隊長キルゲ・シュテルンビルト最高位外交官の籠絡計画について』

「なに、これ」

『光の帝国・星十字騎士団・先遣部隊統括狩猟隊長キルゲ・シュテルンビルト最高位外交官は、世界の八割を統治管理する光の帝国と我が国との交流の際に尽力してくれている人物である。彼を籠絡し、八割の情報や技術を手に入れる任務をアイリスディーナ・ベルンハルト王女に命じる』

「どうしてそんな重要な任務が私に? お姉様とか、もっとそういうのに長けた人物がいるでしょ」

『アイリスディーナ・ベルンハルト王女にこの任務を任せるのは、キルゲ・シュテルンビルト最高位外交官が、王都にあるベルンハルト魔法戦士学園に体験入学するためある。この国最高峰の授業を受けてみたいという本人の希望である。それを我々は断ることができない。真世界城はこちらの世界の技術を遥かに凌駕しており、ニ割世界の国全てが資源やエネルギーを真世界城に頼っている状態である』

「嘘……そんなに? インフラを全て握られて経済も全て頼っている? そんなの国なんて呼べないじゃない」

『もし存在するに値しないと見られれば潰される可能性もある。武力でも真世界城には勝てないからだ。しかしこれはチャンスである。キルゲ・ベルンハルト最高位外交官と関係を持てば我々は一気に二割世界での覇権国家となれるだろう。これは国家の明暗を分ける分水嶺である。その為にはベルンハルト魔法戦士学園に在学し、高い地位を持ったアイリスディーナ・ベルンハルト王女が適任である。アイリスディーナ・ベルンハルト王女が付きっきりで案内し、学園の恥部を隠し、そして籠絡しする。理想としては結婚が最高である。最低でも好意的な記憶を残すような働きを望む。国のためにその身を尽くしてほしい』

「ふざけるな……ふざけるな! 私は道具じゃない! 家のものでも! 国のものでも!」


 ぐしゃり、と手紙を握り潰す。


「だけど、私の行動次第で国が傾く。そんなのッ、そんなのッ、やるしかないじゃない」


 アイリスディーナ・ベルンハルトは王女てある。相応の特権と待遇を受けて育ってきた。恵まれて育った。姉と比べられてコンプレックスや煩わしい家の道具にされることもあったが、それでも裕福で快適な生活をしてきた。

 それは王女だから。

 王女は肩書だけではない。

 力を持っている。

 国を背負い、導く、そのために高度な教育や裕福な生活があるのだ。だから、国のために身を捧げるのはこれまで享受してきた恩恵に対する対価なのだ。踏み倒すことは許されない。


 家の問題ならどうにでもなっただろう。しかし国となると規模が違いすぎる。だから、アイリスディーナ・ベルンハルトはこのキルゲ・シュテルンビルト最高位外交官を籠絡させなければならないのだ。



 キルゲ・シュテルンビルトは数人の部下と共に、ベルンハルト魔法戦士学園に体験入学しに来ていた。校長に案内されて、貴賓室の前まで来ていた。

 白い軍服を着た集団は生徒からの注目を集めていた。一瞬で世界の八割を白い城に変えた白服集団。魔力とは違う謎の青い光の弓矢を扱い、世界各地で目撃され、活動するも何もわからない組織。そして最初期に反抗勢力を一掃し、それから二割の世界に対して武断政治を続けている。


 それ故に白服の軍服を着た殲滅者に対して、恐怖、戸惑い、不安、侮り、反感、それぞれの感情が向けられる。


「すみません、殲滅者の方を見る機会があまりないもので」

「気にせず結構ですよ、こちらも貴方方を気にしないので」


 眼中にない。

 圧倒的な上から目線からの言葉だった。校長は笑顔を崩さず、「手厳しい」と声を漏らす。

 先遣部隊の面々は黙って、そして仮面で表情を見せず、規則正しい軍靴を打ち鳴らす。

 貴賓室にノックの後、開ける。

 そこにはアイリスディーナ・ベルンハルト王女がいた。

 座っていた彼女は緊張した面持ちで立ち上がり、そして頭を下げる。


「初めまして。今回、体験入学中の付き添いをさせてもらいますアイリスディーナ・ベルンハルトです。よろしくお願いします」

「始めてまして、アイリスディーナ・ベルンハルト王女。私は光の帝国・星十字騎士団・先遣部隊統括狩猟隊長キルゲ・シュテルンビルト最高位外交官になります。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」


 二人は握手を交わす。


「どうぞ、お席へ」

「これはご丁寧にありがとうございます。それと、一つ、大切なお話があるので私と彼女以外外してもらえますか?」


 そう言うと校長が申し訳無さそうに言った。


「すみません、私はアイリスディーナ様の護衛を兼ねているので席を外すのは」


 その瞬間だった。

 キルゲ・シュテルンビルトに控えていた先遣部隊の一人が校長の顎を殴りつけて意識を飛ばし、そのまま両腕を折り、足を折り、肩に背負って、部屋の出口に歩いていく。


「遅いですよ、彼が否定の言葉を発する前にやりなさい」

「申し訳ありません」

「では、我々は扉の前で待っています」

「ええ、周囲の誰にも、聞かれぬように」

「了解しました」


 アイリスディーナ・ベルンハルトは何も見えなかった。校長は弱くない。むしろトップクラスの学園の教員なのだから上澄みも上澄みだ。それを瞬殺。そして何より恐ろしいのが、その容赦の無さ。


「あ、あ」


 震える。

 恐怖で体が震える。


「ハァイ! それではお話と行きます! 私はこの国である話を聞きました。曰く凡人の剣と。それを作ったのは貴方だと」

「は、はい」


 声が。

 声が。

 声が出ない。


「それは、何故ですか?」


 まるで尋問でも受けているような圧迫感を感じていた。


「私には才能がありませんでした。生まれつき魔力は多かったし、努力もしてきたつもりです。私自身そこそこ強いとも思っていました。それでも、本物の天才には絶対に勝てない、と思いました」 

「続けてください」

「私はずっとイリア姉様と比べられてきました。周囲の期待もあったし、何より私自身がイリア姉様を尊敬し、追い付きたいと思っていた。だけど、私はイリア姉様と同じようにはできませんでした。何もかも、最初から持っているものが違いました。だから私は私なりに考えて強くなろうとした。その結果が」

「凡人の剣」 

「はい、凡人の剣。私には才能がなかった。だから技術で勝とうとした。しかしそれでも姉に敗北しました。みんなが使えるけど才能のある強い人には敵わない使い勝手の良いレベルの剣術。それが私の使う凡人の剣術です」


 それは懺悔にも悔恨にも聞こえる説明だった。それを聞いて、キルゲ・シュテルンビルトは静かに言う。


「凡人の剣。誰でも鍛えれば一定の強さになれる剣術。私はそれを生み出した貴方に会いたいと思った」


 キルゲ・シュテルンビルトは静かに立ち上がり、アイリスディーナ・シュテルンビルトの背後に立つ。そこからは押し潰されそうな物理的なプレッシャーが放たれていた。


「貴方を尊敬に値する人物だと認識しました」

「え?」

「多くのものが勘違いしています。特定の個人のみが持つ莫大な力と、誰もが使える微力な力。この二つを比べた時、多くの人が前者を優れていると判断します。しかし、物事の本質は数と時間です。多くの人が、研究し、発展させ、運用する。これを繰り返す。それによって生まれる汎用性に富んだ技術こそが国を繁栄させるのです。個人の能力に頼ったものは戦術面では優れていても戦略的ではない」


 勘違いをしないように、と注意を入れて。


「私は弱者を醜いと思います。みすぼらしいとも。しかし、貴方は強い。武力ではなく、考え方が柔軟であり、自分の力を正しく認識して、正しい努力をした。闇雲に強者の真似事を繰り返し努力と宣う愚かものではなく、自身の力を理解し、受け入れ、それを発展させ、凡人にも再現可能な高度な技術を構築、更には周囲へ教授する広い度量も持つ戦略的な強者なのです」


 それは圧倒的な上位者からの視点ゆえのアイリスディーナ・シュテルンビルトの人生の肯定だった。


「私は先遣部隊を率いています。そして各地で活動してますが、私個人の実力は星十字騎士団の中でも下位に位置するでしょう。しかし、殲滅者の基礎能力を成長させた結果、陛下に目をかけて頂けるようになりました」


 そして。


「私で得たノウハウを全体で共有すると組織力そのものが強くなりました。今はこの世界で上位に位置する私ですが、かつては弱かった。しかし貴方の言う凡人の剣に類するものを極めた結果、地位と名声と武力を手に入れた。だから貴方に会いたかった。この二割の世界は我々と比べてレベルが低い。あらゆる面で劣っている。しかし、だからこそ、貴方のような汎用性に富んだものを開発できるものは貴重であり、重要なのです」


 キルゲ・シュテルンビルトは肩に手を置いて、優しく語りかける。


「貴方は強い。自信を持ってください。貴方に姉に関して劣等感をもたせる環境や、周囲からの蔑みの評価は、周りが間違っています。貴方は素晴らしい」


 絶対敵わない存在からの肯定。

 極限状態での優しい言葉。

 自身の在り方を真っ直ぐ受け止める姿勢。

 それにアイリスディーナ・シュテルンビルトは、これまで感じたことのない奇妙な感情と共に涙を流していた。

異世界侵略部隊隊長キルゲ・シュタインビルトの華麗なる活躍

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