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アイリスディーナ・ベルンハルト王女が泣き止むのを待って、キルゲ・シュタインビルドは優しい声で話しかける。
「落ち着きましたか?」
「はい、すみません」
「いえいえ、では少し真面目な話をしましょう」
「はい」
アイリスディーナはピン、と背筋を伸ばして話を聞く態勢を作る。
「まず、我々の目的についてお話ししましょう。我々は世界を光の帝国に統一したい。この残りの二割の世界も我らの世界の一部としたい」
その率直な言葉にアイリスディーナは言葉を失う。それは宣戦布告に等しいからだ。
「武力で支配するのは容易い。しかしそうではないのです。世界を光の帝国にするというのは世界の法則そのものを隷属させ真世界城に変化させるということです。分かりにくいとは思い〼が、念頭に置いてください」
「はい」
「その為には忌み人……こちらでは悪魔憑きや呪いの肉塊と呼ばれている存在を集めて、一気に破壊する必要があり〼。そして都合の良いことにアンダー・ジャスティスと名乗る組織が勢力を拡大させています。彼らの活動目的はニャルラトホテプ教団の壊滅。まぁテロリストがテロリストを狙って活動していると思ってください」
「て、テロリスト!?」
「はい。テロリストとテロリストが潰し合っています。これは我々にとっては非常に都合が悪い。悪魔憑き呪い肉塊が抗争の果てに少しづつ死んでしまってはいけません。一度に大量の悪魔憑き呪い肉塊を纏めて破壊さたいのですよ」
「な、なるほど」
「だから、二つの組織を煽ってアンダー・ジャスティス勢力を成長させたい。そして、そのアンダー・ジャスティスに自然な形で支援するために貴方の力を借りたい」
「どういうことですか?」
「ライナー・ホワイトがインフィニット・ジャスティスと名乗ってアンダー・ジャスティスとして活動しつつ、このベルンハルト魔法剣士学園に通っています。これが写真です」
キルゲ・シュタインビルドはライナー・ホワイトの写真を見せる。
「彼と親しくなり、理由をつけて援助を行ってほしい。アンダー・ジャスティス活動しやすいように」
「……貴方も私を利用する気なんですね」
少し失望したようにアイリスディーナは呟く。
「利用されるか、対等な関係になるか、それとも滅ぶか。それは貴方の選択を尊重し〼」
「武力をちらつかせた命令ではなく、会話によって私に動くようにするからには、私にもメリットがある話なのでしょう?」
「ええ、聡明な貴方らしい返しです。答えはYESだと返答し〼よ。貴方が望むものを用意しましょう。力、自由、立場、私の権限でできる全てを貴方に与えましょう」
「……まるで悪魔の誘いね。どれも魅力的だわ。とても、とてもね。いいわ、貴方の要求を飲みます。そして、私の願いを叶えてほしい。私の魂の願望を」
キルゲ・シュタインビルドは手袋を外して、手を差し出した。
アイリスディーナは意図を察して、手を握り返した。
契約は結ばれた。
◆
ライナー・ホワイトは15歳になり、王都にあるベルンハルト魔法剣士学園に入学した。大陸最高峰の魔法剣士学園で、国内はもちろん国外からも将来有望な魔法剣士たちが集う。
ライナー・ホワイトはそこで日の当たらない中の下あたりの成績をキープしながら二カ月ほど過ごし、その間に強い人間に目星をつけた。
その中の1人。
アイリスディーナ・ベルンハルト王女とキルゲ・シュタインビルドだ。主人公はアイリスディーナ・ベルンハルト王女。悪役はキルゲ・シュタインビルド。
一番の大物は彼女だった。
ベルンハルト王女とか名前聞いただけでチンパンジーでも大物ってわかるぐらい大物だ。 ちなみに彼女の上には彼女の姉のベアトリクス・ベルンハルト王女というさらに有名な超大物がいるが、学園をすでに卒業しているためライナー・ホワイトは関われない。
このアイリスディーナ・ベルンハルト王女にライナー・ホワイトは特大のイベントを申し込むことになった。というより罰ゲームで負けてそうなった。
ライナー・ホワイトがやることになったイベントは『罰ゲームに負けて女子に告白』である。 というわけで学園の校舎の屋上、ライナー・ホワイトはそこで一定の距離をおいてアイリスディーナ王女と対峙した。
このアイリスディーナに挑むライナー・ホワイトだが、当然無謀な挑戦者はライナー・ホワイトだけじゃなかった。彼女が入学して二カ月、すでに百人を超える男たちが彼女に挑み、冷酷な一言で返り討ちにあっている。
『興味ない』
アイリスディーナ王女ともあれば卒業したら政略結婚だし、子供の遊びには興味ありません。でも彼女に告白した貴族たちもそのあたりの事情は同じだ。大体は卒業してしばらくしたら政略結婚が待っている。だから学園にいるうちに色恋楽むつもりだ。
ライナー・ホワイトもそうなるだろうと予測する。
しかしライナー・ホワイトもその戯れだが、本気で混じる使命がある。学園のアイドルに罰ゲームで告白して振られるのは中々に苦痛だが、しかしやらなけらばやらないで平穏な学園生活で微妙に角が立つ。このイベントはライナー・ホワイトが考えた最高のピエロになることで、それは学園の派閥の地固めをより一層強固ことを意味するのだ。
今日この瞬間のためにライナー・ホワイトは考えた。どうすれば、どう告白すればそれらしい告白になるのだろうか?
言葉選びはもちろんのこと、活舌から音程、ビブラートの利かせ方まで夜通し研究し、ついに最強の告白を習得し、ライナー・ホワイトは今日この決戦の場にいる。
決戦。
そう、彼にとってこれは一大決戦なのだ。
ライナー・ホワイトはアンダー・ジャスティスの王であり、王ならば王として、今この瞬間、1人の勢力図を固める礎としてベストを尽くさねばならない。
ライナー・ホワイトは決意を胸に前を向く。
「付き合ってください」
「よろしくお願いします」
「ん? 君、いまなんて?」
「ですから……よろしくお願いします」
「あ、はい」
何かがおかしい。 しかし恋人認定されるとそれはそれで動きにくくなってしまうのだが……仕方がない。
「と、とりあえず一緒に帰ろうか」
ライナー・ホワイトはそのままアイリスディーナ王女と寮まで帰り、また明日とにこやかに別れた。
キルゲ・シュタインビルドとアイリスディーナ・ベルンハルトは同じ寮で過ごしていた。
「なんか向こうから告白されたのだけれど、もしかして貴方の情報を探るための罠かしら?」
「どうでしょうねぇ、彼は表世界では力を隠し、陰世界で実力者として活躍する欲求があり〼から、他の貴族に混ざって一般人を演じようとして失敗した、とかなのでは?」
「えぇ……何その自己顕示欲と自己満足が混ざった気持ち悪い性癖。いやまぁどんな性癖を持とうと勝手だけど流石に……えぇ」
「まぁ恋人になれたのは僥倖でしょう。そのまま愛してるから貢ぐという設定で、アンダー・ジャスティスへの勢力拡大速度をある程度調節出来る。拡大は貴方経由で支援し、縮小は我々が刈り取る」
「因みに、その費用はどこから出ていくの?」
「そうですねぇ、貴方個人の懐を傷ませず、しかして私も最低限に抑えたい。ならばこの国の、国庫の扉を開放してもらえれば良い。そしてそれは私の権限で行えますねぇ。もし渋るのならば、この国の貴族を半分ほど殺して奪えば、足りるでしょう。そして逆らう者は皆殺しにすれば手出し出来なくなる」
「ええ、そうね。完璧な計画だわ」
恐ろしい。
冷酷。
非道。
アイリスディーナ・ベルンハルトは恐怖に震える。しかしだからこそ、価値がある。自分の身を賭けるほどの価値が。国を捨て、プライドを捨て、己の安寧を捨て、好きでもない男に抱かれる覚悟すら抱かせる。