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私と社長は大勢の人混みの中を歩きながら次々と色々な人と挨拶を交わす。
今日は大手企業の周年記念のレセプションパーティーに呼ばれ社長と一緒に出席する事になった。この日は彼の出張と重なり本来は八神さんが出席する予定だったが、何故か急遽予定を変更して社長と私が出席することになった。
「桐生社長、お久しぶりです」
「小早川社長、いつもお世話になります」
二人の男はそう言いながらがっちりと握手を交わした。
今日の社長はいつもより少しフォーマルなダークブルーのスーツに身を包んでいる。髪も後ろに撫で付けるようにスタイルしていて、大人の男の色香を辺りに撒き散らしている。小早川社長の隣には若い女性がいて、先程から社長を目を輝かせながら見ている。
「ああ、桐生社長、こちらは私の娘で、現在私の秘書をしています。ほら、麗奈、挨拶をしなさい。こちらは桐生クリエーションの社長で、あの桐生グループの会長のご子息だ」
「桐生社長、初めまして。お会いできて本当に嬉しいです」
彼女は輝くような笑みを浮かべると、社長の手を両手で取って握手した。彼女が彼に会えて嬉しいのは見てて明らかで、彼女の目は先ほどからずっとハート型になっている。
「麗奈さん、初めまして。こちらこそお会いできて光栄です」
社長は例のキラースマイルで彼女に微笑んだ。
「あの、桐生社長 ── 」
麗奈さんが何か社長に話しかけようとした途端、突然女性が割り込んできた。
「颯人さん!」
「佐伯社長、お久しぶりです」
私は社長の腕に馴れ馴れしくしがみつく佐伯社長を見た。彼女は広告代理店の社長で、時々彼に仕事のことで相談があると電話がかかってくるので覚えている。
実際に会うのは初めてだが、彼女はおそらく社長よりも少なくとも十歳は上なのではないかと思う。しかし彼女は四十代とは思えないほど若々しい格好と容姿をしている。
綺麗にマニキュアされた爪や若く見える様に化粧された顔、長い艶々の髪は若々しさを全面に引き出していて、パッと見た目は社長と同じ歳に見える、まさに美魔女だ。
「颯人さん、この後ぜひ一緒に飲みませんか?」
彼女は社長にしなだれかかり、彼を上目遣いで見た。チラリと横目で麗奈さんを見ると、すごい形相で佐伯社長を睨んでいる。
「申し訳ありません。今日はこの後すぐ出張に行かなければならないので」
「あら、そうなの?いつお戻りになるの?」
佐伯社長は少しがっかりした顔をした。
「今回は十日間の出張になります」
「そうなの。では帰ってきたらぜひ一緒に会いませんか?」
「そうですね。最近は少しスケジュールが詰まっているので、私の秘書と確認を取っていただけますか?申し遅れましたが、こちら私の秘書の七瀬です」
社長はいきなり私の腰に腕を回すと、彼の方にぐいっと引き寄せた。佐伯社長と麗奈さんは彼のその親密な仕草に目を見開いて私を見た。
── どうしてこの人は無駄にモテるの……
「初めまして。桐生の秘書を務めております七瀬蒼と申します」
内心冷や汗をかきながら、二匹の猫に睨まれたネズミのような気分で二人に挨拶をした。
「そう…秘書の方なの…」
佐伯社長は私を何度も値踏みするように上から下へと見た。麗奈さんは何か考え込むように私を見ている。
「ははは。桐生社長の秘書でしたか。あなたがこの様な場所に女性と一緒にいらっしゃるのは初めてなので、特別な方かと思っていましたよ」
小早川社長は場の雰囲気を全く読まず、私と社長にそう話しかけた。
「彼女はとても真面目で信頼のおける私の秘書です」
彼はそう言うと、オフホワイトのロングワンピースに身を包んでいる私をじっと見た。
今日着ているドレスは、時間のない私の為に社長が用意してくれたドレスで、淡い白色のレースが全体的に施されている。露出度は高くないが肩のあたりはレースで覆われているだけなので、白い肌が透けて見える上、体のラインがはっきりわかるようなドレスになっている。髪はパーティー用に綺麗にアレンジされ、胸にはいつもの様に彼にもらったネックレスを付けている。
社長はただの秘書を見ているとは思えないほど私を熱っぽく見つめてきて、息が止まりそうになる。彼の美しい瞳に射貫かれて耐えきれなくなった私は思わず目を逸らした。最近彼を好きだと自覚してから、彼が何をしても心臓がドキドキしてまともに目を見ることができない。
「お、そろそろ始まるかな?」
小早川社長に言われ前方を見ると、司会者らしき人がマイクを持って壇上に上がるのが見えた。
「そろそろ行こうか。小早川社長、佐伯社長、それではまた後ほど」
社長はそう言うと、私の手を引き再び人混みの中を再び歩き始めた。