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二十代の間は世間を知るためと称してイベント会社に就職し、給料が安い代わりにヒマな仕事を適当にこなし、夜の街を遊びまわった。
実家の寺を継ぐのはもっと先の事だと思っていた。だが、先代の住職である父親が急死し、三十歳になったばかりで急遽寺を継ぐことになった。
自分が住職になって初めて、今の時代に寺院を経営するという事がどんなに大変な事なのか、嫌と言うほど思い知らされた。
既に父親の代から、檀家の数は減る一方だったらしい。観光名所になっているような大寺院ならともかく、正源の寺は東京都心とは言ってもさびれた下町地域にある何の変哲もない庶民の菩提寺に過ぎない。
本堂や事務所の維持管理、水道光熱費、袈裟や仏具の手入れ、何かと金が出て行くばかりで、収入は先細る一方。
寺のすぐ近くには、図々しくも「銀座」を名前に入れた、古ぼけた商店街がある。皮肉なことにその古さが「昭和レトロ」とやらで人気になり、外国人観光客も多く訪れるようになって久しい。
と言うより、最近はその商店街を歩くと、外国人観光客の方が多いくらいだ。
だが、人同士がすれ違うのがやっとの細い路地の奥にある正源の寺は、これといって観光資源になるような物があるわけではなし、訪れる人もまばらな物寂しい場所でしかなかった。
若い人たちが実家の菩提寺に関心を持つような時代でもなく、それでも総本山の高僧たちとのお付き合いやら何やらで、時間ばかりは結構取られる。
父親の死因が急性脳梗塞だったのは、案外働き過ぎが原因だったのかもしれないと、最近正源は思うようになっていた。
檀家での読経を終え、袋だけは立派な布施を受け取り、自分の車に乗り込むと、一気に疲れが出て、正源はまるで老人のような力ないため息をついた。
まだ若造じゃないかと、なめられないよう、檀家にいる間中威厳を取り繕っていた事で、精神的に疲れ果てていた。
車が走り出し、人に聞かれる心配がなくなった事を確かめて、正源は独り言を口にした。
「やれやれ、こりゃ、親父が早死にしたのも無理はないな。坊主が過労死するなんて、世も末だ。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
寺に戻って事務所でお茶を入れるまで、あの年配とおぼしき女性からの依頼の電話の事はすっかり失念していた。
スケジュール表として使っている壁のホワイトボードに張った殴り書きのメモを見てやっと思い出した。
コメント
1件
第2話、読み終わりました。正源さん、イベント会社からいきなり住職って、ギャップがすごいですね…。「坊主が過労死するなんて世も末だ」って独り言、思わず笑っちゃいましたけど、それだけ本音で疲れてるのが伝わってきて。あと、銀座商店街の外国人観光客と、細い路地奥の寂れたお寺の対比が、すごく「今の東京」って感じで好きです。あの年配の女性からの電話、どう繋がるんだろう…続きが気になります。