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 夜の残り香がまだ空に漂うころ。 風に吹かれた葉が、一枚、ひらりと落ちてきた。


 その葉の上に、絵のインクがにじんでいた。


 「……また、空から?」


 花山めののは小さくつぶやきながら、その葉をそっと手に取った。

 葉の中心には、小さな線と丸が描かれていた――それはまるで、“手紙の封”のようだった。


 この数日、空の神が遺したと思われる絵が、まるで「降ってくる」ようにあちこちで見つかっている。

 誰が描いたのか。

 なぜ、空から降ってくるのか。

 ――その答えは、まだ誰も知らなかった。



 一方、海辺の小さな入り江で、ひとりの少女が潮風を受けていた。


 遠形みわこ。

 夜を越えてもなお、心は深海の揺らぎを引きずっていた。


 「夢は……“過去”じゃない。“未来”も描く」

 海の神が言っていたことを、彼女は繰り返すように口にする。


 あの言葉は、みわこの胸に残り続けていた。

 神の声は確かにあった。

 それは幻なんかじゃない――けれど、なにかを“試されている”ような不安も拭えなかった。


 (信じるということは、委ねることじゃない。

  信じたうえで、選ぶということ)


 そのときだった。


 風が止まり、波が静かになり、

 空が、ぴたりと音を失った。


 そして、空から――もう一枚の絵が、舞い降りてくる。


 それは、星空を破って飛び出す“白い手”の絵だった。



 「……空の神が、何かを“描きかけてる”」


 みわこはその絵を見て、確信に近い感情を覚えた。


 空の神は、何かを創ろうとしている。

 それは神が去る前に始めたものではなく――

 今まさに、この空のどこかで“続いている”物語なのだ。



 その夜、4人は火を囲んで静かに座っていた。

 茜花が焼いた甘い実を、星夜が黙ってかじる。

 めののはノートに絵を描いていた。みわこは、その隣で静かに目を閉じている。


 「ねぇ、空の神様ってさ、本当に“あざとかった”の?」

 茜花の無邪気な問いに、めののはふっと笑った。


 「うん。目を合わせるだけで、“なでて?”って顔してた」

 「……おまえ、神になにをしてたんだ」

 星夜が思わず突っ込む。


 「だって可愛かったんだもん」

 めののは悪びれもせず、ノートの絵をくるりと見せた。


 そこに描かれていたのは、あざとく笑う少年の姿――

 その目は、どこかで見た“空の絵”の瞳に、よく似ていた。


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