「あの、夜分遅くすみません…」トントントン玄関を叩く音とともに、女性の声が聞こえた。「はい、どちら様?」と亜漕が出ていった。玄関のガラス越しに見えたのは、なんと、あの黒木夫人だった。「まあ黒木様じゃ有りませんか!」亜漕は忙いで玄関を明けた。「どうなさいました?」黒木夫人とは、金持ちの若い夫人で有りながら、トルコ人のツバメ、アンドレと火事場騒ぎをお越した事で有名人で有る。「まあお上がり下さいな…」二人は奥の座敷のコタツに入った。「何かお飲みになる?と言っても、煎茶か、コーヒー、紅茶になりますが?」黒木夫人は紅茶を頂くと言い、亜漕はストレートティーと、貰い物のクッキーを添えて持ってきた。例の「お悩み相談」の時の貢ぎ物で有る。夫人は紅茶を一口啜ると、「あの男の事なんですけど」と言った。トルコへ帰国し、別の女を捕まえたらしい。夫人は貢いだ金品を何とか取り戻したいと言った。「まあちょっと無理かもね…日本に居ないし。恐らく所持金は無いでしょう。」「でもそれじゃ、あんまり悔しくって…」「また新しいの見つければイイのよ。檀家のお嬢様が今度オマーンに留学するんだ」「まあ、中近東に⁉」「そうそう、交換留学生じゃ無いけど、男なら金隠がいた満腹寺に置く予定なんだよ。」「まあ!」やけに呑み込みが速い。「また新しい出合いが有りますわね…」「そうそうそう。悩む事無いよ…」と亜漕は軽く言った。
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