テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ほほう、こいつは面白え! お兄ちゃんをいじめると、あたしが許さないわよ、ってか? どう許さないのか、教えてもらおうか? カワイコちゃんよ」
番長が美紅の体の真上から覆いかぶさるような格好で吠える。美紅とこいつじゃ体格差が大人と子供並みだ。ま、まずい。最悪の展開になっちまった。俺は次の瞬間に起きるであろう惨劇を予想して全身から冷や汗が吹き出た。が、次の瞬間に起きた事は俺の予想とは全く違うことだった。
なんと美紅より頭二つ分は大柄な番長が軽々と宙を舞い廊下を後方に三メートルは吹っ飛ばされたのだ! 美紅は右手を体の前方に突き出している。そんな馬鹿な!
「住吉さん!こ、このアマ!」
番長の名前は住吉と言うのか。子分4人が一斉に美紅に向かって突進する。だが、また信じられない事が起きた。美紅は両手をまっすぐ前方に伸ばして正面で軽く交差させ、それから掌を外側に向けて左右に素早く開いた。すると……
そんな馬鹿な!美紅が手を触れてもいないのに、4人の不良全員が、まるで何か目に見えない物に弾き飛ばされたかのように後ろ向きにひっくり返った。
「く、くそ! 女だと思って手加減してやってりゃ、いい気になりやがって!」
いつの間にか立ち上がって体勢を立て直した番長の住吉が、手に掃除用の木の長いモップを逆さまに振り上げながら美紅に向かって突進する。うわ、いくら何でもあれはまずい。だが……
俺はまた唖然として、目をごしごし手でこすり、改めてその光景を見て、そして改めて腰を抜かした。
番長が美紅の頭めがけて力いっぱい振りおろしたモップを、美紅は開いた左の掌で軽々と受け止めていた。いや違う! 手で受け止めているんじゃない。モップと美紅の手の間には十センチ以上の間が空いている。モップは何か見えない壁に突き当たったかの様に空中で停まっている!
美紅は空いている右手の指をまっすぐそろえて伸ばし、そのまま自分の額のあたりに当ててこう叫んだ。
「ヒルカン!」
次の瞬間、俺は今まで以上に信じられない物を見た。突き出された美紅の右の掌から、ソフトボールぐらいの大きさのオレンジ色の炎の塊が番長に向かって飛び出したからだ。もちろん、ライターだのスプレー缶だのを使ったわけじゃない。美紅の手の平の中の何もない空間から突然出現したんだ!
モップの雑巾の部分が燃え上がって一瞬で黒焦げになった。番長はモップを手から取り落として顔を両手で覆った。髪の毛の先っぽがほんの少しだけチリチリに焦げていた。
「う、うわあ!」
住吉は番長の威厳もどこへやら、あわてて逃げだした。少し遅れて子分四人が後を追って走り去る。