テラーノベル
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「あー……もう、本当に無理。仕事だるすぎ……」
這うような足取りで、街灯の薄明かりが照らす帰り道を急いでいた、その時。
足元に、ひらりと一枚の紙切れが落ちてきた。
『あなたの悩み、今ならあっという間に解決!』
【特典1】効果抜群ラッキーストーン
【特典2】癒し効果抜群彼氏(※超優良物件)
「……怪しい。怪しすぎて逆に清々しいわ!」
こんな電波全開のチラシを撒く奴なんて、世界に一人しか心当たりがない。私はそのチラシを全力で握りしめると、回らない頭でダッシュした。向かうは、幼馴染の『自称・魔法使い』が営む怪しげな店だ。
バァンッ! と勢いよくドアを開け放ち、私は叫ぶ。
「ちょっと! この詐欺一歩手前のチラシ、あんたの仕業でしょ!」
カウンターの奥から顔を出したのは、端正な顔立ちにどこか抜けた空気をまとった青年―幼馴染のルカだった。彼は私の姿を見るなり、パッと表情を輝かせる。
「やっぱり来てくれた! 待ってたんだよ!」
大型犬が尻尾を振るような無邪気な笑顔。……うっ、顔が良い。だが、騙されてはいけない。私はカウンターにドサリと寄りかかり、ジト目で彼を睨みつけた。
「もう! スマホで何でもできるこの令和の時代に、こんな怪しいチラシ配ってたら一発で警察に御用だからね!?」
「でも、僕……魔法しか能がないし……」
ルカはしゅんとして、籠の中に入った小石をきゅるんとした目で見つめながら、そっと指先でなぞった。
「……その石、なに?」
「これ? これね、僕が魔力を込めて作った『魔石』なんだ! おまじないグッズとして売ろうと思って!」
ドヤ顔で差し出されたそれは、どう見てもその辺の川原で拾ってきた石ころだった。
「でも、全然売れなくて……。ちゃんと癒し効果も幸運アップの魔力もあるのに。お土産屋さんの『ただの綺麗な石』は売れるのに、どうして僕のガチな魔石は売れないんだろう……」
また始まった、ルカのウジウジモード。
ぶっちゃけ、彼の魔法の腕は本物だ。だけど、科学や医療が限界突破している現代において、魔法の需要は絶望的。おまけに、彼には致命的なほど『商才』がなかった。
「はぁ……。私の悩みを聞いてもらいに来たのに、なんであんたの人生相談に乗ってんのよ、私は」
「ご、ごめん……。でも、会いに来てくれてすっごく嬉しい!」
ルカは少し恥ずかしそうに頬を赤らめ、上目遣いで私を見つめてくる。ずるい、その顔は反則だ。
「えっと、今日はどんなお悩みかな? いつもの疲労回復の魔法にする? それとも、上司の機嫌を強制的に直す惚れ薬もあるよ! あと、彼氏も……」
「ああ、じゃあ、いつものヒール魔法でお願い……」
「彼氏はいらないの!?」
ルカがガタッと身を乗り出してきた。
「これね、効果が出るまでにちょっと時間がかかるし、お試し期間付きなんだけど!」
「え!? いらないわよ! 今は仕事が激務すぎて恋愛するキャパゼロだし、そもそも付き合う相手もいないもん!」
私が手をひらひらと振って全力で拒絶すると、ルカは身を乗り出したまま、さらに距離を詰めてきた。整った顔が、目の前に迫る。
「じゃあ、僕は!?」
「……は?」
「ほら、チラシの一番下! ここに『彼氏付き』って書いてあるでしょ!」
幼馴染の口から飛び出した衝撃の発言に、私の思考は完全にフリーズした。
「な、何言ってるのよ……っ」
「ほら、僕のお店って超暇だから、早く帰って家事だって完璧にできる! いつでも癒しの魔法で君の疲れを取ってあげられるし、君の悩みだって、一生……じゃなくて、いつでも隣で聞いてあげられるし……っ」
一気にまくしたてた後、ルカは急に我に返ったように赤面し、今にも泣きそうな顔で私を見つめてきた。
「ダメ……? ……僕じゃ、ダメかな……?」
破壊力抜群の上目遣い。
……ずるい。ずるすぎる。そんな顔で、そんなおねだりをされて、断れるわけがないじゃない。
「ダメじゃないけど……。はぁ、もう、仕方ないわね」
私は熱くなる顔を隠すように、この日一番の深いため息をついたのだった。
コメント
2件
ルカくんの、上目遣いって名のヒール魔法の効き目抜群ですね ( *´`*)ᰔᩚ
うわあ、第16話、めちゃくちゃ良かったです……! 冒頭の「怪しすぎて逆に清々しい」ってツッコミ、もう完全に主人公のキャラが立ってて好きです。ルカの「僕じゃダメかな?」の上目遣い、反則すぎますよ。ずっとウジウジしてたのに最後に一気に距離詰めてくる感じ、幼馴染の積み重ねが効いてて胸が熱くなりました。お互いの気持ちがじわじわ見えてくる展開、続きが気になります!