テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
正直、最初は気のせいだと思ってた。
Ifくんが花の画像ばっかり送ってくるとか、初兎ちゃんの口から自然と「まろちゃんがさ〜」って名前が出るとか。
でも、ある日スタジオで見た光景が決定打だった。
「ねぇまろちゃん、このリリックのここの言葉さ、桜の花びらみたいに散らしてもよくない?」
「お、ええな。じゃあ“風に舞う”って入れよか」
「わ〜それ絶対良い……!あ、あとで帰りに桜餅買って帰ろ?」
――いや、なにその流れ。どこで恋愛ドラマ始まってんの?
つーか僕、スタジオ入りたいんですけど?
あれだよ。最初はツッコむのが楽しかった。
「花より団子ちゃうんかーい!」とか、「スタジオはイチャイチャする場所じゃねぇぞ!」とか。
でも最近、ちょっとだけ……胸がチクっとする時がある。
「……いいな、そういうの」って、思っちゃう。
いや待て僕。
そういうのはIfくんとか初兎ちゃんに似合うことで、僕が求めたらなんか違う。たぶん、らしくない。
でもさ――
ふたりが並んで笑ってるの見たとき、
「負けたなぁ」って、ちょっとだけ思っちゃった。
「いむ、お前、最近ふたりにツッコミ甘くね?」ってないちゃんに言われたけど、違うんだよ。
甘くしてんじゃない。
わかってんの。
あのふたりは、もう《ほっといても大丈夫なレベルで“想い合ってる”》んだよ。
僕がガタガタ言わなくても、お互いの不安とか寂しさとか、花みたいに柔らかく包み込んでる。
だから僕は、見守る側でいい。
ふたりが枯れないように、背中から日差しでも送る係でいい。
(……ちょっとくらいツッコミのタイミング、待ってくれてもよくない?って思うけど)
まあ、そんなこと言ってる間に、またIfくんが「今日の花はな~」って語り出すんだろうな。
そしてまた初兎ちゃんが、「それ、僕にくれる?」って笑うんだ。
……もう、仕方ない。
僕のツッコミが途切れることがない限り、あの人たちの恋は、今日も安定してる。