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三、正体を隠さぬ人でなし




「いいから開けろよ」


 その言葉で、やはりそうかと思った。

 リーツォがやったのだ。


 フラガを殺せば、私が手に入るとでも思ったのだろう。

 頭はあまりよくない男だったから。


 そして、人としての理性をたいして持っていない。

 それが新領主ともなれば、その領民は悪政に苦しんだ事だろう。




「律儀なのね。鍵は開いているわよ」


 開けた瞬間に、誰にも見せた事のない殺人魔法で殺してやる。

 イザはそう思っていた。


 でなければ、いかに魔導士であろうと、一点突破を極めた勇者には勝てないから。


 一対一では、到底かなわない。

 一瞬で決めなければ、抵抗虚しく犯される事だろう。


 今までそうならなかったのは、他の二人……特に、忍びのムメイが居てくれたからだ。

 彼はとても理性的で忍耐強く、そして己を殺して魔王討伐に命を懸けていた。


 その彼が、性欲に溺れるリーツォを良く思っておらず、紅一点のイザをそれとなく守ってくれていたのだ。




「そうか。なら、開けるぜ~っと!」


 予想通り。

 イザが予感していた通りに、リーツォはドアを乱暴に開けると同時に、部屋の中に突進してきた。


 両手には短剣を持ち、傷を付けてでもイザを犯すつもりだ。

 フラガがもう居ないと、知っていなければ出来ない事だ。




「捕らえよ。鋼の帯達よ」


 衣服の全て、下着の細い布にまで仕込んでいた鋼の帯。

 それらはイザの体から数百という数でリーツォに向かった。


「なにっ?」

 鋼がリーツォの手足に巻きつき、自由を奪う。


「そして貫け。心の臓まで迷うことなく」


 飛び込んできた彼の体が、中空で自由を奪われたその次の瞬間には、余った鋼達が刃となって貫き続けた。


 細く仕込んでいるために、それらは容易く肉の奥まで入り込む。

 骨の隙間を抜け、臓腑へ、そして脊椎の隙間から神経までもを突き抜けて行く。


 リーツォが廊下に倒れる頃には、その全ての臓器が、神経と、その脳までもが滅多刺しになっていった。

 最後に貫かれた心臓が、体内でズタズタになった所でようやく、鋼達の動きが止まった。




 イザは衣服のほとんどを失ったが、仇は取れた。


「……馬鹿な男。ここまでのクズでも、力ひとつで勇者を名乗れるなんてね」


 他に被害に遭った女性達も、これで少しは報われるだろうか。

 イザは代わりの服をクローゼットから取り出し、袖を通した。


 フラガが買ってくれた、赤いワンピース。

 派手だと言ったのに、似合うからと着せられた。


 次は、これに合うネックレスを買ってやりたいんだと、彼は言っていた。

 思い出が、どんどん溢れてくる。


 もう二度と戻らない日々。

 フラガとは、もう二度と会えない――。




 そんな無意味なこれからに、どうやって生きていこうかと考えていたその時だった。

 これ以上ない苦しみの中に居るというのに、それはまだ、終わりではないらしかった。


「魔導士イザ! 勇者殺害の現行犯で逮捕する!」

「……え?」


 玄関先には、なぜ今そこに居るのかという衛兵達が見えた。




「大人しく投降しろ! 逆らえばその場で処刑しても良いと言われている!」


 彼らは重騎兵ではなく、軽鎧の動きの素早い者達だった。

 現状を理解する間もなく、攻撃に躊躇している間にもう、取り囲まれてその両腕を掴まれていた。




「なんで……私は悪くない! こいつが私を犯そうとしてきたの!」


「問答無用だ。……おい、そこの死体も回収しろ。勇者もだ」


 指揮官らしき男が、大切なフラガを連れていこうとしている。




「やめて! フラガに触らないで! 私が弔うの! 触らないで!」


 その声虚しく、数人の衛兵によって運ばれてしまった。

 ただ、彼らは乱暴に扱う気はなかったらしく、それなりに丁重ではあったが。




「フラガを返して。私の大切な人なのよ!」


「黙っていろ。お前はこれから裁判だ。おそらく死刑だがな」


 冷徹に話すその男は、そう告げたまま先に出て行った。




「なにが……どうなっているの……」


 逃げようと思えば逃げられる。

 彼らを殺す事それ自体は容易い。


 だが、それが最善の手になるのかがもう、分からなくなっていた。


 リーツォの急襲も、そこでイザが彼を殺す事も、まるで計算通りと言わんばかりのタイミングで逮捕されてしまった。


 つまりは、もっと別の誰かが裏で手を引いているのだ。

 フラガを殺したのは、リーツォで間違いないだろう。


 けれど……それらを利用してイザを貶める誰かが居る。

 それも、衛兵を操れるという、国の中枢に近い人間だ。




 ――せめて、死ぬならフラガと一緒に死にたい。

 イザはもう、考えるのを止めてしまった。


 ――国が私を嫌うのなら。

 どこにも行く場所なんて、ありはしないから。


 遺体となったフラガを連れて、遠くに逃げる事は難しい。

 自分を匿って、遺体も乗せてくれる馬車などの手配が必要になる。

 それに、一体どこに行けば、国の追っ手から逃げきれるというのだろう。



 そこまで考えた後は、諦めてしまったのだ。

 大切な人を失った上に、これ以上はもう、動けない。

 動く気力など、彼女にはもう無くなってしまった。

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