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「どこに行こうか?」
助手席に乗り込むと、彼から尋ねられた。
「そうですね……」と、しばし頭を巡らす。
できれば、彼が少しでも気分が紛れるところへ行きたかった。
「……じゃあ、あのホテルのカフェに行きませんか?」
ふと考えついて口にすると、
「ホテルの……?」と、彼が首を傾げた。
「あなたと初めて会った時に行った、ホテルです。あのカフェで、もう一度ティータイムがしたいなって」
「ああ、あそこか。わかった」と、彼が頷いて、ハンドルを握り直した。
あの場所には、一概にいい思い出とは言えないところもあったけれど、こうして幸せになれた今では、せっかくの初めての出会いの場として大切でもあるあそこには、いつかまた記念に二人で訪れられたらと、ずっと頭の隅に抱いていたことでもあった。
カフェに着き、頼んだシフォンケーキと紅茶を前に、彼と向かい合った。
ふわふわのホイップクリームが添えられたケーキを、フォークで切り分けて一口を頬張る。
「おいしーい。ここのケーキって、こんなにおいしかったんですね」
ほっぺたを片手で押さえて言う私に、
「ああ」と、彼が短く頷く。
「このシフォンケーキのうまさは、前から私も知っていたんだが、そんな話をするより先に、君を帰らせてしまうミスを犯した……」
彼が、ふーっとため息を吐いて、
「改めて言うが……、あの時は私の思い違いのせいで、本当に君には悪いことをしたな」
小さく頭を垂れるのに、「いえ! 貴仁さん、ストップ!」と、急いで否定をした。
「えっと、その……前にも話したかもしれないですが、あの出会いがあったから、私はあなたのことをよけいに気になってしまったと言うか……」
照れ隠しに、ティーカップを口元に運びつつ、はにかんで口にすると、
「よけいにか……」
彼が呟いて、ふっと緩やかに顔をほころばせた。