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「ふふ、そう、よけいに……でして」
彼の柔らかな笑みに釣られるように、自分自身も微笑んで、
「今になってみれば、あの最初に会った時から、私はあなたのことをまるで忘れられなくなっていたので」
その頃の気持ちの移ろいを打ち明けると、忘れようとしても忘れられずに、くり返し彼のことばかりを考えていた記憶が呼び覚まされた。
「それを言うなら、私は君と初めて会った幼い頃から、ずっと君のことを忘れられずにいたのかもしれない」
優しげな笑い顔で、彼が私の想いに応えてくれる。
「つまりは引かれ合うべくして、出会ったんですね」
「ああ」と、彼がためらいなく頷く。
「……なのに君との大事な絆でもある指輪を、失くしてしまって、すまないな。もし見つからなければ、再度オーダーをして同じ物を作ってもらうから」
指輪の嵌まった私の手に、自らの手を重ねて言う彼に、
「必ず、明日には見つかりますから!」
そうであってほしいという願いを込めて、力強く告げた──。
帰宅をして、夕食を済ませると、彼は「もう一度、私一人で探してみるから」と、部屋ヘ戻って行き、いつものように寝るまで一緒にはいられない雰囲気だった。
貴仁さんと、二人でいたいな……。
私室でベッドに腰を下ろすと、シーツの冷たさが身に沁みるようで、彼のいない寂しさがひしひしと感じられて、せめてもの手すさびにとスマホを覗くと、つい『結婚指輪』と検索ワードを打った。
すると──、『不倫をする時には結婚指輪は外すもの』──なんていう検索結果が出てきて、急いで画面を閉じた。
貴仁さんに限って、そんなことはあるはずもないし、まして今日は想いを確かめ合ったばかりなのに……。
それなのに、独りっきりでいると、じわじわとまた不安が襲ってくるようで……。
(『明日には見つかるから』って、貴仁さんにも伝えたばかりじゃない)と、自分自身をなんとか落ち着かせると、ベッドへ潜り込んでブランケットを頭から被った。