テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
静寂が支配する工藤邸の書斎。
難事件を一つ解決したばかりの工藤新一は、深くソファに身を沈め、溜息を一つ吐いた。
手元のコーヒーはすっかり冷めている。
窓の外は深い藍色に染まり、煌々と輝く満月が街を照らしていた。
新一(…そういえば、今夜だったか)
脳裏に浮かぶのは、世間を騒がす一通の予告状。
『今宵、月が最も高く昇る刻、女神の涙を頂きに参上する』
差出人は、好敵手である怪盗キッド。
新一「今回は宝石博物館…俺の管轄外だが、どうにも胸騒ぎがするな」
独りごちた、その時だった。
カチャリ、と背後で微かな音が響く。
普通なら聞き逃すほどの小さな音。
しかし、新一の研ぎ澄まされた聴覚はそれを捉えていた。
新一(ベランダ…!?)
新一が勢いよく振り返ると、そこには月光を背負い、純白の衣装を纏った男が音もなく立っていた。
新一「キッド…!」
キッド「ご名答。今宵も麗しい月夜ですね、名探偵」
優雅にお辞儀をしてみせるキッドに、新一は警戒を解かずに立ち上がる。
新一「予告の場所は宝石博物館のはずだ。なぜお前がここにいる?」
キッド「おや、つれないことを。貴方に会いに来たに決まっているじゃありませんか」
新一「戯言を…」
キッドは悪戯っぽく笑うと、ふわりとマントを翻し、一歩、また一歩と新一に近づいてくる。
その瞳は、いつものポーカーフェイスの奥に、どこか楽しげな光を宿しているように見えた。
キッド「今日の獲物は、どうやら不思議な力を持っていたようでして」
新一「…どういう意味だ?」
キッド「なんというか…とても自由な気分なんです。しがらみも、正体も、何もかも忘れて、ただ貴方だけを見つめていたい、そんな気分にね」
そう言って、キッドは新一の顎にそっと指を添えた。
吐息がかかるほどの距離に、新一の心臓がドクンと跳ねる。
新一「なっ…!?///」
いつもより明らかに積極的で、どこか素に近いような気配を感じるキッドに、新一は戸惑いを隠せない。
キッド「ねぇ、名探偵。今夜は朝まで、俺とゲームでもしませんか? 貴方という極上の謎を、この俺がじっくりと解き明かして差し上げますよ」
その甘い囁きが新一の耳を掠めた、その瞬間だった。
バンッ!!!
勢いよく書斎のドアが開き、息を切らした人影が飛び込んできた。
快斗「新一っ!!」
現れたのは、見慣れた学ラン姿の黒羽快斗だった。
その顔は焦りと
なぜか怒りで歪んでいる。
新一「か、快斗!? なんでお前がここに…!」
ありえない光景に、新一の思考は完全に停止する。
目の前には怪盗キッド。そして、ドアの前には黒羽快斗。
同一人物であるはずの二人が、同時に、ここに存在している。
快斗「はぁ…はぁ…! よかった、無事か…って、え?」
快斗もまた、室内にいるキッドの姿を認め、目を丸くした。
快斗「はぁ!? なんでオメーがここにいんだよ!?」
快斗が指差す先で、キッドは興味深そうに目を細めている。
キッド「おやおや…これは驚いた。もう一人の俺、かな?」
新一「もう一人の…俺…?」
キッドの言葉に、新一はますます混乱する。
快斗はキッドを睨みつけながら、ズカズカと部屋に入ってきた。
快斗「どういうことだよ、説明しろ!」
キッド「さぁ? 先ほども言いましたが、どうやら盗んだ宝石の呪いか祝福か…おかげで、俺は『怪盗キッド』として、こうして君の前に立てている。そして彼は『黒羽快斗』として、そこにいる。そういうことなんじゃないか?」
まるで他人事のように、キッドは肩をすくめてみせる。
その余裕綽々な態度が、快斗の神経を逆撫でした。
快斗「ふざけんな! っていうか、なんで新一にベタベタしてんだよ!」
新一「え、あ、いや…」
我に返った新一がキッドから距離を取ろうとするが、キッドは逆にぐいっと新一の腰を引き寄せ、自分の腕の中に閉じ込めた。
キッド「おっと。大事な獲物を逃すわけにはいかないんでね」
新一「なっ…離せ、バカ!」
腕の中で身じろぎする新一の抵抗を、キッドは楽しむように受け流す。
そして、勝ち誇ったように快斗を見つめた。
キッド「いいじゃないか、別に。俺が名探偵をどうしようと、お前には関係ないだろ?」
快斗「関係なくねーよ! 大ありだっつーの!」
快斗はわなわなと拳を震わせ、キッドに向かって叫んだ。
快斗「新一は…! 工藤新一は、オレのもんだ! オメーなんかに渡すかよ!」
新一「はぁっ!?」
突然の所有権主張に、今度こそ新一は素っ頓狂な声を上げた。
『オレのもん』? どういうことだ…?
キッドは快斗の言葉を聞くと、くつくつと喉を鳴らして笑った。
キッド「へぇ、言うじゃんか、素顔の俺。でも残念だったな。先にこの名探偵を手に入れたのは、この俺だぜ?」
そう言って、キッドは新一の髪に優しく口づける。
その挑発的な行為に、快斗の怒りは頂点に達した。
快斗「てんめぇ…! 新一から離れろ!」
キッド「嫌だと言ったら?」
快斗「力ずくでも引き剥がす!」
新一を間に挟み、火花を散らす二人の
『黒羽快斗』。
片や、月光を纏う純白の怪盗。
片や、嫉妬に燃える黒衣の高校生。
キッドは新一の耳元に顔を寄せ、悪魔のように囁いた。
キッド「なぁ、名探偵。教えてくれよ。普段の冴えない高校生の俺と、こうしてお前を攫いに来た怪盗の俺…どっちがお好み?」
その問いに、新一は言葉を失う。
頬がカッと熱くなるのを感じた。
快斗「新一に変なこと聞くんじゃねぇえええ!!」
快斗が猛然とダッシュし、キッドから新一を奪い返そうと腕を伸ばす。
キッドはそれをひらりとかわし、新一を抱えたまま窓枠へと飛び乗った。
キッド「おっと、タイムアップだ。続きはまた今度、ゆっくりと楽しもうじゃないか、名探偵」
快斗「逃がすかよ!」
新一「ちょ、お前ら、いい加減に…!」
三者三様の叫び声が、静かだった工藤邸の書斎に響き渡る。
一体全体、この奇妙な三角関係(?)はどうなってしまうのか。
新一の受難は、まだ始まったばかりだった。
新一「(…なんで、俺が取り合われてんだ…!?)」
訳が分からないまま、二人の熱のこもった視線を受け止め、新一はただただ途方に暮れるしかなかった。
1話おわりー
結構面白いストーリーだと思わない?˙ᵕ˙
コメント
2件
いいねの数が半端ねぇ、、、