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タイトル: 「はんぶんこ」
高校の帰り道、私はひとりで歩いていた。空はまだ明るくて、夏の終わりの風が心地よく、足元にはきれいな影が落ちている。気づけば、歩道の隅に立っている小さなカフェが目に入った。普段は気にも留めないそのカフェだが、今日はなぜか気になった。
店内には、見慣れた顔があった。クラスメートの西村。彼とは話す機会が少ないけれど、どこか落ち着いた雰囲気のある男子だ。彼がひとりでカウンターに座っているのが見えた。
私は少し躊躇したが、そのままカフェに入った。彼は気づいて、少し驚いた顔をしてから、優しく笑って手を振った。
「おー、こんにちは。座る?」
私はうなずいて隣に座った。カフェの中は、やわらかな音楽と香ばしいコーヒーの香りが広がっている。注文を済ませて、しばらく二人で無言で過ごした。
「なにか頼む?」と、西村が言う。
「うーん、アイスクリームにしようかな。」
注文を頼んだ後、私はふと考えた。西村とは一度も深く話したことがなかった。でも、今日なんとなく話したくなった。
「ねぇ、西村、よく思うんだけど…」
彼は静かにこっちを見て、少し首をかしげた。
「うん?」
「もし、好きなものを半分こできるとしたら、どんなものを選ぶ?」
彼は驚いたような顔をした後、少し考えてから笑った。
「はんぶんこ、か。うーん、僕は…君と一緒に食べるアイスクリームかな。」
その言葉に、私は少し胸が温かくなるのを感じた。普通なら、アイスクリームを半分こするなんて、何でもないことだ。でも、誰かと一緒に「はんぶんこ」することで、普通のものが特別になる気がした。
「アイスクリーム…?」と、私は思わずつぶやいた。
西村はニコっと笑って続けた。「うん。君とだったら、何でも分け合える気がする。だって、たまにそんな小さなことで、幸せを感じることってあるじゃない?」
その言葉に、私は言葉を失った。西村の言葉は、なんだかとても優しくて、心に響いた。アイスクリームを半分こすることが、こんなにも心を温かくさせるなんて。
アイスクリームが運ばれてきた。お互いにスプーンを手に取って、ゆっくりと食べ始めた。口の中で冷たさが広がると、自然と笑みがこぼれた。最初はただの「はんぶんこ」だったけれど、今はそれが特別な意味を持っている気がした。
「ありがとう、今日はここに来てよかった。」私はそう言うと、西村はまたにっこりと笑った。
「僕も。こうやって、何気ない時間を一緒に過ごせるのが一番幸せだと思う。」
その瞬間、私はふと思った。誰かと「はんぶんこ」することで、どんなに小さなことでも、大きな意味を持つのだと。アイスクリームを半分こすることだって、心の中で温かな記憶になる。
「じゃあ、次もまた、何かはんぶんこしようね。」私はそう言うと、西村は頷き、二人で笑った。
その日から、私たちはたくさんの「はんぶんこ」を重ねていった。小さな幸せが積み重なって、少しずつお互いの心の距離が縮まっていった。そして気づけば、私たちはいつも一緒にいることが当たり前になっていた。
「はんぶんこ」することで、私たちの関係は、特別なものになったのだと思う。