テラーノベル
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ライブの本数が、少しずつ増えてきた。客も、ほんの少しだけ増えた。
「前より聴きやすくなったね」
「まとまってきたじゃん」
そんな言葉を、もらうようになった。
──なのに。
終わったあとのステージに、前みたいな熱は残らなかった。
琉夏「……なんか違くね」
楽屋に戻って、ベースを下ろしながら呟く。
冬星は壁にもたれて、水を一口飲んだ。
冬星「なにが」
琉夏「今のライブ」
少しだけ言葉を探してから、続ける。
琉夏「ちゃんとしてたけど……つまんなかった」
自分で言っていて、矛盾しているのは分かっている。
でも、それが一番近い。
冬星は、少しだけ目を伏せる。
冬星「じゃあ戻せば」
あっさりと言う。
その軽さに、胸の奥がざらつく。
琉夏「簡単に言うなよ」
思わず声が強くなる。
琉夏「あれじゃ、どこにも行けねえだろ」
言った瞬間、空気が変わる。
冬星の視線が、ゆっくりと上がる。
冬星「どこってどこ」
低い声。
逃げ場がない。
琉夏「……もっと上だよ」
冬星「上ってなに」
淡々と重ねてくる。
言葉が詰まる。
でも、引けない。
琉夏「ちゃんと評価される場所」
はっきりと言い切る。
その一言で、何かが決定的にズレた。
冬星の表情が、初めてはっきり歪む。
冬星「……それのために音変えんの?」
抑えた声。
でも、奥に熱がある。
琉夏「変えるっていうか、合わせるだけだろ」
冬星「合わせた結果が、さっきのだろ」
言い返される。
何も言えなくなる。
分かってる。
分かってるけど──
琉夏「じゃあどうすんだよ」
少しだけ声が荒くなる。
琉夏「このまま“分かるやつだけ分かればいい”で終わんのかよ」
その言葉に。
冬星の目が、はっきりと冷える。
冬星「……それでいいけど」
静かすぎる声。
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
琉夏「は?」
冬星「別に、全員に分かってもらう必要ないだろ」
あまりにも、迷いのない答え。
それが。
たまらなく、怖かった。
琉夏「……それじゃ、意味ねえだろ」
冬星「なんで」
即答。
一歩も引かない。
琉夏「……音楽って、聴かれてなんぼだろ」
その言葉に。
冬星の手が、ぴたりと止まる。
数秒の沈黙。
それから。
冬星「……俺は違う」
はっきりと言った。
冬星「俺は、あの音鳴らせればそれでいい」
胸の奥が、強く引っかかる。
──あの音。
2人でしか出せない、あの歪んだ音。
それを否定するつもりはない。
むしろ。
誰よりも分かってる。
でも。
琉夏「それだけじゃ足りねえんだよ」
気づけば、言い返していた。
冬星の目が、鋭くなる。
冬星「じゃあ、なんで俺とやってんの」
その一言で
空気が、完全に止まった。
答えなんて、簡単だった。
──冬星じゃなきゃ、あの音は鳴らせない。
でも。
琉夏「……それは」
言葉が、出てこない。
正直すぎる答えを、飲み込む。
代わりに、違う言葉が浮かぶ。
琉夏「お前も、もっと上行けるだろ」
絞り出すみたいに言う。
でも、それは──
本当に伝えたいことじゃない。
冬星の表情が、すっと冷める。
冬星「……いらない」
短い否定。
琉夏「は?」
冬星「上とか、評価とか、どうでもいい」
淡々と続ける。
その言葉が、妙に遠く感じる。
冬星「今の音、捨ててまで行く価値ある?」
核心を突かれる。
一瞬、何も言えなくなる。
でも。
琉夏「……あるだろ」
強く言い切る。
自分に言い聞かせるみたいに。
琉夏「こんなとこで終わりたくねえ」
その瞬間。
冬星の目が、わずかに揺れた。
初めて、迷いみたいなものが見えた気がした。
でも、すぐに消える。
冬星「……じゃあ、好きにすれば」
投げるような言い方。
距離を置くみたいに。
琉夏「は?」
冬星「合わせたいなら、他でやれば」
心臓が、強く跳ねる。
理解が、追いつかない。
琉夏「……それ、どういう意味だよ」
低く問う。
冬星は、視線を逸らしたまま。
冬星「そのまま」
それだけ。
あまりにも、簡単に。
──切り離された。
琉夏「……っざけんなよ」
気づけば、声が荒くなる。
琉夏「誰とでもいいみたいに言うな」
初めてだった。
ここまで、感情が出たのは。
冬星が、ゆっくりとこちらを見る。
その目は、静かで。
でも、どこか痛そうだった。
冬星「……違う」
小さく言う。
冬星「誰でもいいわけじゃない」
一歩、近づく。
冬星「でも、お前がそれを望むなら、俺じゃなくてもいいだろ」
その言葉が。
胸の奥に、深く刺さる。
琉夏「……は?」
意味が、分からない。
でも。
分かりたくないだけかもしれない。
冬星は、少しだけ目を伏せる。
冬星「……俺は、あの音じゃないなら、やる意味ない」
それが、答えだった。
完全に、噛み合っていない。
同じものが好きなのに。
同じ場所にいたはずなのに。
琉夏「……じゃあ、どうすんだよ」
絞り出す。
冬星は、少しだけ考えてから。
冬星「……知らない」
そう言った。
初めての、不確かな答え。
それが逆に、リアルだった。
沈黙。
何も決まらないまま、時間だけが過ぎる。
琉夏「……っは」
小さく笑う。
でも、全然笑えていない。
琉夏「壊し方も、分かんねえのかよ」
ぽつりと落とす。
冬星は、何も言わない。
ただ、少しだけ目を細めた。
──終わらせ方が、分からない。
それが今の、2人だった。
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