コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「おかーたん、ねんね」
昼間にたくさん遊んだせいか、今夜は早寝の圭太。
時計を見たらまだ8時を少し過ぎた時間で、雅史は今夜は帰りが遅くなると言っていたから、しばらくは自分1人の時間が持てる。
パソコンを開き、スマホを横に置いて依頼されたデータを開く。
_____パワーポイント、やってみるかな?
時間がある時に、新しい仕事のことも勉強しておこうと思った。
それは自分のためというより、遠藤に認めてほしいからだけど。
一部だけ作成してみて、遠藤に評価してもらおうとパソコンでデータを送った後、スマホでメッセージを送った。
〈こんばんは。一部だけ、パワーポイントでやってみました。遠藤さんに見てもらいたいので、お時間ある時に、確認をお願いします〉
「送信!よし、と」
今時間があればすぐに返事が来るだろうし、そしたら何かやり取りができるかもしれない、そう考えたらワクワクしてきた。
ぴこん🎶
「え?」
届いたのは遠藤ではなく、舞花からのLINEだった。
《杏奈さん、こんばんは。ちょっと訊きたいことがあるんだけど……》
〈はい、何かな?〉
《あの、ご主人の雅史さんって、帰ってますか?》
〈まだよ。今夜は職場の人たちと送別会とかで遅くなるみたい。何か用事だった?〉
時計を見たら10時になろうとしていた。
《それ、ホントですか?別な誰かと別な場所に行ってたりしてませんか?》
_____え?どういうこと?
舞花が何を言いたいのかわからなくて、ひとまず電話をしてみた。
「もしもし、舞花ちゃん?どういうこと?」
『うんとですね、うちの隼人君がそちらの雅史さんと帰りにバッタリ会ったから、居酒屋で飲んできたって言ったんだけど。雅史さんと行ってないなら、誰とどこに行ったのかなぁって』
_____隼人さん、なんで雅史といたなんて言ったんだろう?
「私にはわからないなぁ。でももしかしたらホントにうちの人と一緒だったのかもしれないよ、もうじき帰ってくると思うから確認してみるね」
面倒なことには巻き込まれたくないから、さっさと話を終わらせようとした。
『ちょっと待って、杏奈さん。もしも隼人くんと雅史さんが何か口裏を合わせているとしたら、浮気かもしれないからちゃんと確認してくださいね!』
「うん、わかった。そんなことはないと思うけどね」
『私、心配なんです。隼人くん、今日はいつもよりオシャレして出かけたから、何かあるんじゃないかって。ほら、杏奈さんが言ってた違和感みたいなやつですよ』
「そうなの?隼人さんは営業だからいつもきちんとオシャレしてると思うけど」
『身だしなみはきちんとしてるけど。今日は香水とか財布までいつもと違ったんです。どこかにお出かけするの?って訊いたら、気分転換だよって言っただけで。なのに帰りがいつもより遅くて、そしたら雅史さんとバッタリって。だからおかしいなって。それに雅史さんは別の用事でまだみたいだし』
「それだけじゃ浮気とは……。ちゃんと説明してもらってみて?私も雅史に連絡してみるね」
『今お風呂に入ってるから、あがったら問い詰めてやります、雅史さんはまだ帰ってないよって』
「落ち着いてね、ストレスはお腹の赤ちゃんによくないから」
『はい、なんとか落ち着いて話してみます』
舞花からの電話を切って、今朝の雅史のことを思い返していた。
_____そういえば、いつもよりオシャレをしてた気がする
シャツやネクタイ、スーツもちょっといいやつだったし、香水のようなものも付けていた。
仕事上、担当の飲食店に行くこともあるからと、普段はそんなものは付けないのに。
「あ、そうだ!」
少し前から、やたらにスマホで何かを検索していたんだった。
あれは検索ではなくて、連絡を取っていたのかも?
舞花に言われたことで、雅史の様子も少しいつもと違ったことに気づいた。
私は雅史にLINEを送った。
〈帰り、何時ごろになる?〉
《ちょっとわからないなあ。退職する人の送別会だからね。二次会までは参加する予定。その後はどうするかな?》
雅史からはすぐに返事がきた。
いつも職場の人といる時は、私なんかの返事は後回しになるのに。
〈わかった。とても遅くなりそうね。気をつけて帰ってね〉
わざと、《とても》遅くなりそうねと嫌味を込めてみたけど、通じただろうか。
いや、そもそも職場の人たちとの飲み会かもしれないし、そしたら今日の雅史は《白》ということになる。
疑いだけでは、問い詰めても逃げられるだけだろうし、そしたらそのことで家庭内もギスギスしてしまう。
_____いまのところは、特に被害もないし
被害?
なんの?
金銭的な?
精神的な?
家庭を壊さず、私には気づかれないようにしてくれたら、知らなかったことにできそうだけど。
スマホが震えて、メッセージを受信した。
《こんばんは。パワーポイントはこんな感じでいいので、残りもやってみてください》
遠藤からのメッセージだった。
事務的でそっけない気もするけれど、雅史のことでごちゃごちゃ考えている時は、この方が頭が冷静になれる。
〈わかりました。やってみますね〉
《今夜は冷えてきましたよ。風邪などひかないようにあったかくして休んでくださいね》
きゅん、と心が震えた。
_____優しいなぁ、遠藤さん
〈はい、ありがとうございます。遠藤さんもあったかくしてくださいね〉
などとやり取りしていたら、またLINEを受信した。
「え?!」
それは舞花の友達の、仲道京香からだった。
あの披露宴の時に作ったグループLINEではなく、個人的に送られてきていた。
《ご主人、お借りしてまーす》
のコメントと一緒に送られてきたのは、どこかのお店だろうか、薄暗い店内の写真だ。
「!!」
それは京香と雅史がキスをしている写真だった。
「バカにしてるの!!」
思わず大きな声を出してしまった。
その写真は、一方的に京香からキスをしていて雅史は咄嗟のことに間抜けにも目を開けていた。
_____こんなの、美人局《つつもたせ》みたいじゃない!若い子に騙されたりしてないでしょうね!?
雅史はこのお店を出たら、どこからかコワモテのおじさんが出てきて、お金を請求されるんじゃないだろうか?そんな不安に駆られた。