テラーノベル
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夢を見た。
子供の頃に思い描いたような美しい大地を走り回っていた。
楽しかったな、と満足感を得ると同時に終わってしまったという喪失感が鈍った心を支配するが、もう同じ夢は見れないだろうとこれまでの人生が語っている。
誰しも、昨晩みた夢を心に浮かべながら目を瞑った夜などもう数えられないはずだ。
ああ、様々なことを知ってしまった今こんな心から純粋に楽しいと思えるのは夢の中だけだろう。
いくら楽しいと思っても現実などいくらでも近くにあるのだから。
何をしていたって腹は空くし、時間を忘れていたから時間が止まるわけではない。
しかし、自分だけという夢はそうではないのだろう。どれだけのことをしていても時間は変わらず、腹が空くこともない。(どんな夢にもよるだろけども)
なんだか夢というのはゲームのようだ。現実の時計が何周したってその画面の中では時計の針は微動だにしていないし、ゲームの中の自分は眠いとかお腹空いたとか言ってくることもない。ゲームのキャラクターが何日も何も食べずに走り続けることが出来るのは夢だからなのかもしれない。だとしたら彼(彼女)は何を思って瞼を閉じたのだろう、この夢は、悪夢なのだろうか。
でも、そんなことを考えたって仕方がない。ゲームはゲームなのだから。
私は夢を見た日はしばらくその夢を心の中で思い浮かべるようにしている。いつからかはわからないが昔からだ。しかしきっかけは今もなお覚えている。誰かに、恐らく母なのだが、幼い私はその日見た夢を夢中で話していた。洗濯物を畳む母の隣で寝転び、その夢がどれだけ楽しかったとか、誰がいたのかとか、きっとそんな事を話していて、でも途中で思い出す事ができないところがあった。感情は残っているが具体的なものがぐちゃぐちゃに混ぜられたように思い出せなかった。それを身振り手振りで必死に伝えようとする私にじっと話を聞いていた母が口を開いた。
「人はね、夢を覚えている事ができないんだって。朝起きて、だんだん夢を忘れていっちゃうんだって。」
それを聞いて私は子どもながらに納得したのを覚えている。朝起きてあんなに楽しかったと思う夢も夜には夢を見たという事しか思い出せない。それを母は勿体ないと言っていた。私もそう思った。夢の中とはいえいろんな事をしたのに忘れてしまうなんて悲しいじゃないか。
母はそんな私に共感してくれた。そして、少しでも長く覚えているために夢を見た日は最初にその夢を思い出すのだと、そして誰かに自分が見たしっちゃかめっちちゃかな夢を話して笑うのだと。昔見た夢を笑ながら話ながら母はそういった。
きっと母はこの事を覚えていないだろう。でも私はこの事をこの先も覚えている予定である。
忘れると言われて、素直に忘れる義務なんて私にはない。
意識が遠のく
視界に映る部屋が別の部屋、外、建物と混ざったように曖昧になる
遠くで電子音が鳴っている
「あぁ、頭がいたい」
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第1話、読みました。 冒頭の「子供の頃に思い描いたような美しい大地」の描写がすごく綺麗で、でも同時に「もう同じ夢は見れない」っていう諦めがじわじわ染みてきて……。 特に、お母さんとの会話で「忘れると言われて、素直に忘れる義務なんて私にはない」って思うところに、胸がぎゅっとなりました。忘れたくない気持ち、すごくわかる。 喪失感と執着が混ざったような、この重くて繊細な空気感、好きです。続きが気になります。