(……やっぱり、あなたたちだったのね)
クロードが「助ける」と向かった先には、レジーナが予想した通りの面々――リオネルたちがいた。
危機的状況から救出されたにも関わらず、彼らの表情は固い。レジーナとの再会を喜ぶ様子は見受けられなかった。
レジーナは小さく溜息をつく。
「……聞きたいことも言いたいことも色々あるでしょうけれど」
前置きして、安全地帯への移動を提案した。
見知らぬ男――クロードによる案内。
リオネルたちは暫し迷う様子を見せる。が、結局――他に案もないだろう――、フリッツが同意し、移動が決まった。
クロードの手が伸びてくる。
移動の度に人を抱き上げようとする手。
レジーナは固辞し、彼の後ろを歩く。既に、ドレスの裾はボロボロ。歩くに向かない靴のせいで足先は痛みを訴えていた。
痛みに耐えて歩くと、やがて、木製の扉らしきものが見えてきた。
クロードが扉の前で立ち止まり、振り向く。
レジーナに目線で「ここだ」と合図を送り、扉を押し開いた。
軋んだ音を立てて開いた扉の向こう、現れたのは石壁の部屋だった。
「……思ったより、綺麗なのね」
「魔物避けと保護魔法が施してある」
言って、中に入る彼に続く。
長い間放置されたらしき家具には埃と蜘蛛の巣。
武器や探索道具、食器が無造作に転がり、人が生活していた痕跡がそのまま残されていた。
レジーナに続き、リオネルたちが入ってくる。
「……人が住んでいたのか」
「部屋数が多いな。……宿?」
部屋の奥、いくつかの扉が並ぶ。
アロイスの疑問に、クロードが答えた。
「前線の、活動拠点だった……」
レジーナは、ヴィジョンの断片を思い出す。
騎士団の野営地の一つ。扉の先は就寝用の小部屋に繋がっている。
クロードがノソリと動く。
「念のため、香を焚いておく」
レジーナは頷いて返した。
魔物を寄せ付けない香はダンジョンの必需品。
奥の部屋に向かうクロードを見送った。
リオネルが口を開く。
「……レジーナ。あいつは何者だ?」
「クロードよ。……先程、ここで出会ったの」
彼の名を明かしたが、誰もその名に反応しない。彼を「英雄クロード」と結ぶ付けはしなかった。
(それはまぁ、そうよね……)
今の彼に、かつての英雄の面影はない。
嘘はついていない。でも、全ては伝えない。
明かすのは、今後の彼らの出方次第。
リオネルの猜疑心に満ちた目がレジーナを見る。
「あいつはこんなところで何をしている? いや、そもそもここは何処だ?」
質問の裏に「お前なら分かるだろう」という予断が透けて見える。
部屋の中、向けられる五対の瞳。
敵意と不審。
ここまで、レジーナを案じる言葉は出てこない。
不意に、知らぬ香りが漂ってきた。
初めての香り。
だが、レジーナはそれが魔物除けの香だと知っていた。
クロードが香炉を手に戻ってくる。
レジーナは口を開いた。
「ここはカシビアダンジョン。ダンジョンの三十階層よ」
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