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「見渡す限りの花畑だろう?」

「なんて見事なんでしょう。どこもかしこも一面、真っ白ですね」


野菊の群生は、養蜂のために管理されているという。

エアハルトが土地の持ち主に許可をとって、今日は特別に中へ入れてもらった。

蜜を集めている蜂の邪魔にならないよう、隅っこへ敷物を広げて、クラーラは持参したお弁当を開ける。


「どうぞ、こちらがエアハルトさんの分です」

「ありがとう。クラーラの料理には、いつも愛を感じる」


きれいに並んだサンドイッチに、エアハルトは頬を緩めた。

いただきますと手を合わせて、二人はさっそく食べ始める。

エアハルトはどれを食べても、美味しいとクラーラを褒めた。

口直しのピクルスが特に気に入ったようだったので、クラーラは自分の分もエアハルトへ分ける。

すっかり満腹になると、改めて素晴らしい花畑の景色を眺めた。


「よくこの花畑を見つけましたね。かなり城下町の端にあるのに」


修道院も城下町の端にあるが、この花畑もかなり外れにあるようだ。

あまり地理には詳しくないクラーラだが、ここに来るまでに一度も大通りを通らなかった。

だから勘は外れていないだろう。


「仕事のため、今はあちこちを訪ね回っていてね、その途中で、ここに立ち寄ったんだ。そのときは、デレクも一緒だったよ」

「もしかして、デレクが蜂蜜を持って帰ってきた日ですか?」


すでにデレクは、エアハルトの仕事を手伝っており、時おり土産を持ち帰ってくる。

その日は、ずっしりと重たいビンを抱えて帰ってきて、子どもたちが大歓声をあげたものだ。


「牛乳に入れたり、パンに塗ったり、大活躍していますよ」

「喜んでもらえたのなら良かった」


朗らかに笑うエアハルトは、一体どんな仕事をしているのだろう。

クラーラが質問をしてもいいかどうか、そわそわしていると本人の口から答えが紡がれる。


「バリーを覚えているかな? 彼もうちの会社で働いているんだ。ちょうど今日は、あちら方面を調査していると思う」


エアハルトが西に腕を伸ばす。

クラーラも視線をやるが、今は野菊の花咲く丘しか見えない。


(私にとって城下町は、知らない場所だらけ。あちらには何があるのかしら)


修道院の周辺しか歩いたことのないクラーラには、想像もつかない。

いつか修道院を出る日が来たら、世界の広さを知るのだろうか。

未来へ思いを馳せていたクラーラに、エアハルトが仕事の話を続ける。


「調査には人手が必要だから、バリーのカード仲間はみんな雇ったんだ。頭の回転が速くて、記憶力がいい人材の宝庫だったよ」

「何の調査をしているんですか?」

「一軒一軒、住居や店舗を訪ねて、住んでいる人や働いている人の名前を聞いて回っている。それを城下町の地図に、落とし込んでいるんだ」

「それが何かの役に立つんですね?」


どんな仕事なのかは不明だが、エアハルトが無駄なことをするとは思えない。


「例えば友人に手紙を出すとき、オルコット王国の人はどうしてる?」

「自分で届けるか、共通の知人に頼んで届けてもらうか……どちらかですね」

「それを知って驚いたんだ。オルコット王国には、配達業がないんだってね」

「ハイタツギョウ? それがエアハルトさんの仕事なんですか?」


クラーラが首をかしげる。

なにぶん初めて聞いた言葉だった。


「簡単に言うと、手紙や荷物を預かって相手先へ届ける仕事だな。キースリング国では、国営でそれをやってるんだ」

「自分では届けられず、知人にも頼めず、そういうときに利用するんですね」

「バリーにも説明したんだけど、どこの誰かも分からない奴に荷物なんか預けられるか、って一蹴されたよ」


ははっ、とエアハルトが笑っているから、すでにバリーが納得するだけの仕組みを開示したのだろう。

そうでなければ、バリーはとっくに会社を辞めているはずだ。


「手始めに、城下町から始めたい。そしてゆくゆくは、国内を網羅する規模にするつもりだ」

「それは……壮大ですね」

「配達業はすでに、キースリング国で完成されている事業だからね。それをこちらに持ってくるだけだから、資金さえあれば不可能じゃないんだ」


エアハルトの話の大きさに、クラーラは驚く。

すでにある事業を模倣するだけと謙遜するが、国が運営する規模の事業を個人でやろうと言うのだ。

それは十分に驚異的なことだ。


「これから忙しくなりそうですね」

「おかげさまで、優秀なフリッツが大活躍しているし、デレクやバリーといった人材にも恵まれている。成功が約束されたも同然だから、そんなに焦ってはいないんだ。じっくり腰を据えて取り組むつもりだから、こうしてクラーラに会う時間はいつでもあるよ」


にこりと微笑むエアハルト。

これは次のデートの約束をしてもいいタイミングだ。

そう判断したクラーラは勇気を出す。


「あ、あの、次の休日もまた、会ってもらえますか?」

「喜んで。俺は毎日でも、クラーラに会いたいから」


ひっとクラーラは息を飲む。

そんな甘い言葉を返すなんて反則だ。

帽子のつばで赤くなった顔を隠すクラーラを、エアハルトは柔らかく見つめた。


「次はカフェに甘いものを食べに行こうか? クラーラが何を好きなのか、俺に教えて欲しい」

「一度だけ、院長先生が連れて行ってくれたことがあります。シスターは清貧を旨としているので、本当はあまり大っぴらに行ってはいけないんですけど」

「粋な計らいだね。院長はきっとクラーラに、年頃の女の子と同じ経験をさせてやりたかったんだろう」

「そのときに、何層にも重なったクレープを食べました。間に色々なソースや果物が挟まっていて、見た目も味も素晴らしくて感動したんです」


当時のことを思い出し、クラーラの顔がふにゃりと解ける。

そんな顔が見られるなら、エアハルトはカフェごとクラーラにプレゼントしたいと思った。


「キースリング国にも、似たような菓子があったよ。パイを層にして重ねるんだけどね。姉さんが好きで、よく食卓に出ていたな」

「エアハルトさんには、お姉さんがいるんでしたね」


以前、クラーラが髪の長さについて話したときに、エアハルトは姉について言及していた。


「顔つきは俺と似ていると言われる。同じ黒髪と黒目だからかな」


三つ年上なんだ、とエアハルトが付け加えた。


「年が近いんですね。私とお兄さまは17歳も離れていたから、まるで親子のようでした」

「幼いクラーラも、可愛かっただろうな。もしかして王城に、肖像画なんて残ってないかな?」

「どうでしょう? 王城を出たのは、10歳のときだったので……」


記憶を辿るクラーラだったが、覚えている限りでは、肖像画は飾られていなかった気がする。


「もし残っていたとしても、ダイアナさまの手で処分されている可能性が高いと思います」

「なるほど、それはあり得るな……惜しいことだ。もっと早く、俺がクラーラと出会っていれば、肖像画も護ってやれたかもしれないのに」


真剣に悔やみ始めたエアハルトに、クラーラが微笑む。


「ありがとうございます。そう言ってもらえるだけで、嬉しいです。私も……母の肖像画が残っていれば良かったのにと思います」


しんみりした空気が流れそうだったので、クラーラは話題を変える。


「キースリング国は、海の向こうにあるんですよね。私は船に乗ったことがなくて……航海ってどんな感じですか?」


エアハルトはもちろん、クラーラの意をくむ。


「この花畑みたいに、見渡す限り大海原が広がっていて、それをざぶんざぶんとかき分けて船が進むんだ。波に煽られて揺れるし、慣れないうちは足元がふらつくけど、自分を取り巻く全てのしがらみから解放されたと俺は感じた」

「しがらみ……」

「クラーラが抱えているものは大きいから、それくらいでは晴れないかもしれないが」

「いいえ、私も航海に出てみたい、と思いました」

「いつか一緒に、世界中を旅するのもいいな」


そんな未来を想像するだけで、今のクラーラの胸はいっぱいになる。

しかし、次のデートを迎えるより先に、予期せぬ人物がエアハルトの前に立ちはだかるのだった。

ひとりぼっちになった王女が辿り着いた先は、隣国の✕✕との溺愛婚でした

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