約束の朝
朝が来た。
アルバイト明け。
眠れたのは、
四時間と少し。
それでも、
目は覚めた。
まだ寝ている、
妻と娘を、
横目に見る。
音を立てないように、
布団から出る。
娘の顔に、
そっと近づく。
小さな寝息。
すうすうと、
心地よさそうに眠っている。
可愛い。
どんな夢を、
見ているんだろう。
そんなことを考えるのは、
自然で。
何も疑わない、
父親の感情だった。
額に、
ほんの少しだけ、
顔を寄せる。
……行ってきます。
小さく呟いて、
家を出た。
車に乗り込む。
エンジンをかける。
でも、
すぐには発進しない。
スマートフォンを、
手に取る。
LINE。
まだ、
何も来ていない。
少しだけ、
胸がざわつく。
だから、
僕から送る。
約束したから。
おはようございます。
朝早くからすみません。
いい天気ですね。
行ってきます。
菜月さんも、行ってらっしゃい。
送信。
画面を閉じる。
フロントガラスの向こう、
朝の光が、
眩しい。
いつになく、
身体が軽かった。
疲れは、
確かにある。
積み重なった労働の、
重さもある。
それでも。
ふっと、
吹き飛んでいた。
会いたい。
そんな言葉が、
自然に浮かぶ。
同時に、
これから重ねるであろう、
嘘のことも、
考えていた。
不思議と、
それは、
計画じゃなかった。
ただ、
当たり前のように、
頭にあった。
エンジン音が、
少しだけ高くなる。
車は、
ゆっくりと走り出す。
朝の中へ。
戻れない方へ。






