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カチカチカチカチカチカチカチカチ
時計の音だけが静かに私の部屋に木霊していた。寝たくても寝れない、眠れない状況に思わず壁を蹴りたくなったが、それで揉め事になったらこの上なく面倒だった。
「なーにが、ドアを開けちゃダメ、よ」
実にくだらない、そう思った。何を見たのか、はたまた何を聞いたのか知らないけれど、その問題をわざわざこちらにまで持ってこられるというのは、私にとってとんでもなく嫌なことだった。 自分の尻拭いは自分でしてほしいものだ、とつくづく思った。
今思えば、あの物体以外の奴らもそうだ。変に正義感を振りかざしたと思えば、周りに流されて結局は空振る馬鹿や、泣くだけ泣いて何も動こうとせず、ただ自分の妄想の中でしか生きられない、息が出来ない可哀想な惨めな弱者や、いつだって自分を上に見立てて、足元から己が食われることを知らない、上ばかりを見て下なんて見向きもしないクソ野郎に、クスリをキメて会話が通じないうえに契約まで取り付けてきた柳。全員全員、気持ち悪いゴミ以下の底辺共。考えるだけで腸が煮えくり返る感覚がした。
はあ、と短く息を吐く。考えるだけで無駄だ、どうせ何も解決しやしない。諦めてさっさと目だけでも瞑って明日に備えよう、と息巻いていた時、静かな扉の向こう側で、ガリガリと爪で引っ掻くような音が聞こえた。
「・・・何かしら?」
しばらく無視してみたものの、一向にそれが止む気配はなく、寧ろコンコンとノックをされたり、聞き取れないほどの小さな声で何かをブツブツと囁かれた。初めはすぐに止むだろうと思い何とも思わなかったが、ここまで来ると流石に苛立ちが募る。
「うるっさいわね・・・」
もう開けて文句を言ってやろう、どうせあの外で寝てる物体が誂いに来たのだろう、そう思ってドアノブを手に掴んだところで、寝る前に言われたあの言葉を思い出し、決して怖くなったわけではないがドアノブから手を離した。そして逃げるように、でも、決して音を立てないように、気づかれないように、静かに、静かに、慎重にベッドへと足を進め、ベッドに両足が着いた瞬間、バッと毛布を頭まで被り、耳を塞いだ。
「もう、なんなのよ・・・!!」
苛立ちと恐怖と、その他諸々の感情が組み合わさってゴチャゴチャになる。板一枚越しからは未だにノックをされたりしている。
こうなったら、意地でも寝てやろう、そして、扉越しにいる何かが去るのを待とう。いや、待つしかないのだ。私には。
こういうときに限って起きようとしない他の物体たちを、薄い壁越しに少しの寝息を感じて、そう思った。
ルーチェ。
そう名付けてくれたのは、両親だった。
両親はとても可憐で儚く、美しく、まるで一枚の絵のようだと噂されていた。私もそれを自分事のように誇らしく思っていた。私のことをいつも思ってくれる優しいお母様、いつも私のことを守ってくれる優しいお父様。願わくば、どうか今だけでも、眠る私を護ってくれますように。そんな淡い、汚い願いを込めて、私は目を瞑った。