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◻︎説明
「ちょっとこっち来て!」
「え?なんでですか?」
「いいから早く!」
私は半ば強引に結城を引っ張って、デスクに戻った。
「おっ?やっぱり付き合ってたのか」
「仲良いとこ、朝から見せなくても」
ざわつくみんなの前で、パン!と手を叩いて静かにしてもらい、結城を横に立たせた。
「みなさん誤解されてるようなので、ちゃんと説明しておきますね。まず、呼び出されたのは誰から?」
質問形式で結城に答えさせる。
「えっと、南総合病院からです」
「どこに、呼びだされたの?」
「病院にです、チーフが救急搬送されたからって」
「なんで、結城君だったのかな?」
「たまたまチーフのスマホ履歴に残ってたから…です」
「そう、たまたま。うちの父に連絡したけど入院してるから病院に来れない。で、病院としては仕方なく!結城君に連絡した、それだけです。なので、おかしな誤解を招いているようですが、そこはキチンと否定しておきます」
「えっ!じゃあぁ、結城先輩と森下チーフはぁ、なんでもないんですね?うふ♪」
日下はまた胸元で両手を合わせている。
_____はい、はい、どうぞ、あとはお好きにしてちょうだい
「なぁんだ、森下さんのそんな話題を聞いたことがなかったから、これはいいニュースだと思ったんだけど」
同僚の宮崎亮太が言う。
「いいニュースじゃなくて、ごめんなさいね」
思い切りにこやかに返す。それ、一つ間違うとセクハラだよと、付け足して。
その時、私の隣に立つ結城がしょぼんとうなだれてるとは、私は気づかなかった。
「おいおい、別に嫌いだと言われたわけじゃないんだから、そうしょげるなって」
ぽんぽんと結城の背中を叩く宮崎。
「ですよね?まだセーフですよね?」
「あぁ、頑張れよ」
二人の会話の意味がわからない。何を頑張るというのか?
「私ぃ、チーフには負けませんよぉ」
「え?なんのこと?」
_____日下からいきなりの宣戦布告?
「もう、なんだかよくわからないけど、ほら!誤解も解けたことだし、仕事仕事!」
それぞれがパソコンに向かったり、資料を持って外回りに出たりと、仕事を始めた。誤解は解けたはずなのに、なんとなく周りの空気がいつもと違う気がする。
_____まぁ、いいか
2日休んだ分を取り戻すべく、いつもよりハイペースで仕事を片付けていった。ランチは取らず、目処がつくところまで一気に進める。
午後3時を過ぎた頃、早絵が現れた。
「森下チーフ、少し、休憩しませんか?」
「あー、うん、そうする」
どうせならと、コーヒーを持って屋上に上がった。吹き抜ける風は、社屋を流れる風とは違い季節の変化を運んでくる。コーヒーを置いて、両手を空に向かって思い切り伸ばした。
「うーん!空は青いし、風は気持ちいい!季節はすっかり秋だよねぇ」
「だよね。屋内にこもってるとこんな風も感じないから、季節が変わってることも気づかない。で、どうなの?体調は」
「うん、もう平気。でもあの痛みは、人生最大かも?死ぬかと思った、マジで。孤独死って単語が頭をよぎったよ」
あの夜の痛みと不安を思い出したら、またゾッとした。