小鳥のさえずりで目を覚ます。
目を開ければ
人間の整った顔が目の前に広がる。
昨日ピカピカのモフモフにされたあと
「風邪引いたら困るから!!」
と布団をかけられ
人間の隣に寝かされたのを思い出す。
まだ完全に心を許したわけではない。
ただ人間の
「僕は君の味方だからね。」
という言葉を信じたいと
思ってしまったから。
いつ裏切られるかなんか分からない。
分からないけど
僕はこの人間のそばに
居てもいいような気がした。
野生の勘的なものなのだろうか。
人間の笑い方が
昔のご主人様と重なったのだ。
笑っているのに目が笑っていない。
この人間の笑顔は
前のご主人様を思い出される。
偽りの笑顔。
ー猫の僕と笑えないピエロー
僕はとても大きな
サーカス会場の近くで生まれた。
たくさんの人にたくさんの猛獣達
がうじゃうじゃしている。
僕を拾ったのはサーカスで活動してる
一人のピエロだった。
ピエロは笑顔で派手な衣装を着て
白塗りに涙のメイクをほどこし
人々の前で滑稽な役を演じ
会場を沸かす大切な役割らしい。
けど僕を拾ったときご主人様は
とても悲しそうな顔をしていた。
笑顔はなくただ
僕のことを優しく抱きしめてくれた。
ご主人様は僕が想像していたピエロとは
程遠い存在だった。
拾われてからはや数週間。
ご主人様は一度も笑わなかった。
ショーがある日は朝早く起き
着替えと髪のセット
それとメイクをしショーに行く。
ショーが終われば
お風呂に入ってそのまま布団に入り眠る。
そんな生活の繰り返し。
時々僕の頭を撫でたり
抱きしめてくれたりするが
そのときも笑顔はない。
ピエロのご主人様は
笑っているのだろうか。
僕は部屋を抜け出し
ご主人様のショーを見に行くことにした。
人の波をかき分け
なんとか会場についた。
小さな子供から大人まで
たくさんの人間が居る。
僕は人気の少ない場所に移動し
ご主人様を待つ。
ご主人様を待ってる間
人間達の空中ブランコに綱渡り
動物達の火の輪くぐりや縄跳びなど
数多くの芸を見た。
一通り演目が終わり
会場が静まってしまったその時
ご主人様が出てきた。
ご主人様は小さなボールに乗り
お手玉をしながら会場に入り
舞台の真ん中で大きく転んだ。
次に胸元からステッキを取り出し
観客に向かってステッキをふった。
ステッキの先端からは
オダマキという花を咲かせた。
その後もご主人様は
滑稽な言葉や動作で観客を笑わせた。
ご主人様も笑っていた。
だけどそれは偽りの笑顔だった。
僕には分かった。
僕には伝わった。
観客を笑顔に出来て嬉しいはずなのに
ご主人様は悲しそうな顔をする。
無理やり笑っている。
まるで笑顔の仮面を
つけているかのようだった。
心が痛くなった。
もしかしたらご主人様は
笑いたくないのかもしれない。
ご主人様の本当の気持ちなんて
猫の僕には分からない。
その日の夜ご主人様は寝る前に
僕のことを抱きしめてくれた。
ご主人様の心臓の音がきこえる。
ドクドクと一定のリズムで
動いているご主人様の心臓。
ご主人様だって人間だ。
決してロボットではない。
僕はご主人様に向かって
小さな声で鳴いた。
なぜ鳴いたかのかは自分でも分からない。
やっぱりご主人様は悲しそうに笑った。
僕はご主人様のために
何か出来ないのだろうか。
ご主人様は心の底から
笑うことは出来ないのだろうか。
僕が笑顔にさせることは
不可能なのだろうか。
たとえ出来なくとも
少しでもご主人様に寄り添うことは
できるのではないのだろうか。
猫の僕にはやっぱり無理なのだろうか。
ご主人様が急に話し出した。
[君が来てから僕は楽しいよ。]
僕は耳を疑った。
ご主人様から“楽しい”という
言葉がきけたからだ。
悲しそうな顔で笑うのに…。
僕は返事をするように鳴いた。
[朝起きれば君が隣に居るし
寝るときも隣に居てくれる。
僕は一人じゃない。
君のおかげでね。]
僕は知らず知らずのうちに
ご主人様の役に立てていたのだろうか。
僕は大きな声で返事をする。
僕もご主人様に出会ってから
毎日が楽しくて幸せだよ。
ご主人様は不格好ながら
僕に向かって笑った。
きっとこれは偽りの笑顔ではないと思う。
ご主人様は心から
楽しいと思えたのだろうか。
猫の僕もときに
ご主人様を笑顔に出来る
ピエロになれるのかもしれない。
そうだ僕も人間の役に立つことが
出来るのだ。
いつかこの人間のことも
心の底から笑わせることが
僕になら出来るのだ。
いつかではなく今すぐだ。
猫の僕はピエロになるのだ。
コメント
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うわあああすき🥹💗 猫とピエロの話🥲🥲🥲🫰🏻💞毎日の楽しみの一つです😎💗続きがたのしみ‼️‼️‼️