テラーノベル
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予選通過の興奮冷めやらぬ周囲をよそに、俺は一人、早々に学園の演習場をあとにしていた。「……はぁ、かったるい」
口をついて出たのは、心底からの呆れ混じりの溜息だ。
「学園代表決定」だの「栄誉ある予選突破」だの、教官や脳筋どもは大層にはしゃいでいたが、俺に言わせればあんなものはただの生ぬるいおままごとに過ぎない。
泥とワイヤーを仕掛けただけで自滅していく連中と付き合うのは、完徹の身体には無駄な疲労以外の何物でもなかった。
(次の本戦トーナメント……コロシアムのタイマンじゃ、流言やブラフだけじゃ押し切れない。弾薬の補充と、C4の予備、それにワイヤーの新調は必須だな)
学園の門を抜けると、俺は一直線に魔界の裏路地――次元の歪みが溜まる暗闇領域へと足を向けた。
目的地は、人間界の闇商人ハンスとの定期連絡口。だが、問題が一つあった。
ハンスの扱う現代兵器は超一級品だが、その分、代金も莫大だ。最新型の耐熱ワイヤーや高純度のC4爆薬を買い揃えるには、手持ちの金ではまるで足りない。
「……となれば、ついでに『財布』を膨らますか」
俺は街の境界線上に広がる、危険指定区域『黒骨の渓谷』へと足を踏み入れた。
ここには、高値で取引される魔石や部位を持つ大型モンスターがうろついている。魔法使いどもがパーティーを組んで大掛け声と共に狩るような危険種だが、俺にとっては単なる「歩く資金源」だ。
「グルルルァッ!!」
暗がりから飛び出してきたのは、全身を岩石のような甲殻で覆った大型の魔獣『グラグロス』。並の爆薬魔法すら弾く頑強な皮膚と、一撃で家屋を粉砕する突進力が売りの脳筋モンスターだ。
「大声を出すな。寝不足の頭に響く」
俺は欠伸を噛み殺しながら、ゆったりとした足取りで歩みを進めた。
手には、外套の下から引き抜いた消音拳銃と、一本の鋼鉄ワイヤー。
グラグロスが大地を揺らし、口から高熱の火炎を吐き出しながら猛突進してくる。
迫る巨大な質量。炎の熱風が俺の頬を撫でる――そのコンマ01秒前。
「――『局所遅延(ディレイ)』」
魔力を極小放出し、巨獣の突進軌道上の空間を一瞬だけ鈍化させる。
ズレが生じた巨体。その目に見えない僅かな足元の隙間に、俺はすれ違いざま、手にしたワイヤーを滑り込ませた。
「ガッ……!?」
勢いを殺しきれず、自身の重量で足首を切り飛ばされたグラグロスが、激しい音を立ててのめり込むように落倒する。無防備に晒されたのは、甲殻の隙間――唯一魔法が届かない柔らかい関節部だ。
「……よし、動くなよ」
俺は倒れ伏した巨獣の首元へ跳び乗ると、迷わず銃口を隙間にねじ込み、引き金を二連射(ダブルタップ)した。
パンッ、パンッ!
「ガ……ッ……」
絶命した巨獣の体から、眩い光を放つ巨大な『高純度魔石』が転がり出る。市場に持っていけば、C4爆薬数十ブロックと最新の特殊弾頭が余裕で買い揃えられる破格の値がつくシロモノだ。
「ふぅ……これでハンスへの支払いは十分だな」
血を払ったナイフで手際よく魔石を回収し、戦術ポーチへ突っ込む。
「生ぬるい演習の後に、モンスター狩りの肉体労働……。まったく、貧乏くじを引かされるハーフの身にもなってほしいもんだ」
俺は再び盛大に欠伸をかますと、魔石の入った重い袋を担ぎ直し、ハンスの待つ暗闇の密輸ルートへと、気怠げな足取りで向かっていった。
魔石の詰まった重い袋を肩に担ぎ、裏路地の密輸ルートから学園へと続く裏通りに戻ってきた俺は、またひとつ欠伸を噛み殺していた。
「……ふぅ。これでハンスへの支払いは済んだし、C4も予備弾倉も余るほど届く。あとは帰って寝るだけ――」
そう思って路地を曲がった瞬間、冷気と雷鳴と爆風と風の擦過音が、まとめて視界を塞いだ。
「――だから言ったでしょう! 予選を突破したからと浮かれるなと! フォームが乱れているわよ、ボルト!」
「んもーっ! セリス様は真面目すぎるんだって! 予選後の自主練くらい、もっと楽しくやろうよー!」
「あたしはいつでも爆破の準備できてるよー! ほらほら、風のシエル! 景気よく吹き飛ばしてー!」
「……うるさい。風が乱れる……」
学園裏の荒れ果てた錬兵場。
そこにいたのは、異母姉のセリスを筆頭に、エレナ、シャーロット、シエルの四人だった。どうやらサバイバル予選が終わったばかりだというのに、本戦に向けた「反省会兼自主錬」の最中だったらしい。
(……面倒なところに鉢合わせたな。気配を消して迂回する……)
俺が気怠げに踵を返そうとした、その時だ。
「――待ちなさい、クロード!」
セリスの冷たい声が飛んできた。氷の結晶が足元をかすめ、逃げ道を塞がれる。
「こんな時間にどこへ行っていたの? 予選を突破したからと調子に乗って、一人で街をうろついていたわけ? どこまで不真面目なのよ、アンタは」
「別に調子に乗っちゃいない。買い出しだ」
「買い出しぃ? その肩に担いでる重そうな袋は何さー?」
シャーロットが興味津々に目を輝かせて覗き込んできた。袋の隙間から覗く、超高純度魔石の放つ禍々しい輝きを目にした瞬間、セリスとサブヒロインたちの表情が一変する。
「……ッ!? それ……『黒骨の渓谷』に生息する最上位魔獣の魔石じゃない! なぜそんなものが……!?」
「えっ、うそ!? あの危険区域のモンスターを、一人で狩ってきたの!?」
エレナが目を丸くし、ダウナーなシエルも珍しく目を細めて俺の手元をじっと見つめてくる。
「……血の匂いと、弾丸の匂い。一人で……秒で叩き潰してきたの……?」
「まあな。次の本戦(コロシアム)に向けた資金調達だ」
俺は袋を肩に担ぎ直し、盛大に欠伸をひとつ吐き捨てた。
真面目に魔法の練度を競い合い、フォームがどうのと議論している純血のエリートたち。相変わらず大雑把で、型にハマった練習ばかりしている姿を見ていると、呆れを通り越して少しばかり気の毒にすらなってくる。
「……はぁ。お前たち、本戦のリングであの脳筋どもと正面から魔法を撃ち合うつもりか? そんな生ぬるい立ち回りをしていたら、本戦の初戦で脚をすくわれるぞ」
「~っ! なちなちなのよ! 私たちの鍛錬を愚弄する気!?」
セリスの周囲で氷結魔法が爆ぜる。
俺はフッと息を吐き、ポケットに手を突っ込んだまま、四人に向けてゆったりとした足取りで歩み寄った。
「言っただろ、予選の時に。お前たちの魔法は大雑把で隙だらけだってな。……どうだ? 資金調達の帰り道だ。ついでに資金調達がてら、俺が相手になって鍛錬してやろうか?」
「な……ッ! 資金調達がてら、ですって……!?」
「アタシたちをまとめて『金の成る木』扱いする気!? 面白いじゃん、乗った!!」
シャーロットが拳を叩き合わせ、エレナも「今度こそクロードの小細工の種を暴いてやるんだから!」と紫電を散らす。シエルは無言で風の刃を準備し始め、セリスは屈辱と怒りで氷剣を強く握りしめた。
「後悔しなさい、クロード! 私たちの全力が、アンタのその小細工ごと叩き潰してあげるわ!」
「……来いよ。実戦の『殺し合いの速度』ってやつを、身をもって教えてやる」
俺は外套の下から静かに消音拳銃を引き抜き、安全装置(セーフティ)を外した。
本戦前の前哨戦。四人のヒロインたちを相手にした、冷徹な暗殺者の特別授業が始まる。
n a ♡︎︎ *
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蒼月
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グリルタ
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コメント
1件
「第10話、読み終えたよ〜🥀」 主人公のクールで計算高い感じ、めっちゃ好きだな。 予選通ったのに浮かれてる周りをよそに、モンスター狩りで資金調達とか渋すぎる。 「局所遅延」でワイヤー仕掛けて倒す戦闘センス、痺れるわ…。 ヒロインたちと鉢合わせて「実戦の♡♡♡合いの速度を教えてやる」って挑発するところ、最高にカッコよかった! 続き、すごく気になるよ🤍 あと、完徹ボディで動いてるの心配だから、ちゃんと寝てほしいな〜って思った(小声)