事件が発生した時、団長は事務所で経理の仕事をしていた。一方、
マリーナとロイズは客席でセリアのリハーサルを見ながら、自分たちの出番を待っていた。
エマは照明を当てており、ゲンは2階の部屋で小道具の整理をしていた。
ジョセフがびびりながら聞いた。「そ、その……へ、蛇女さんは?」
蛇女からの返事はない。
その様子をみてエマが代わりに答えた。
「その時間は猛獣小屋の掃除をしていたはずです。時間通りに働いていますので。」
ジョセフは安心したように頷く。「そうか。」
フェリックスは確認するように尋ねる。
「ロイズさんとマリーナさんは客席で見ていたんですね?」
マリーナはその長い髪をかき上げながら返事をした。
「ええ、でも見ていたわけじゃなくて、自分の出番を待っていただけよ。」
ロイズも不機嫌そうに手を広げて付け加える。「僕もずっと見ていたわけではないよ。」
フェリックスはさらに核心に迫るように尋ねた。「セリアさんに何か変わったところはありませんでした?」
マリーナは考え込んでから
「特にないわ……あ、そういえばさっき、ロープが刃物で切られたって言ってたわね。」
フェリックス「はい。」
マリーナは続けた。「ロイズはナイフの名手よ。吊るされたロープをナイフで切るなんて、余裕でできるはず。」
ロイズは驚き、反論した。「ちょっと待って!僕と一緒にいただろう!僕にそんなことできるわけがない!」
マリーナは手を広げ、ロイズを見ながら
「さあ、どうかしら。ロイズが席を立った時があったわ、あの時にロープを切ったのよ。」
ロイズは慌てて否定した。「僕を疑ってるの?あの時はトイレに行ったんだ。それに、
トイレから帰ってきた時にはまだセリアは生きていた。」
ワトリーが補足する。「1階のトイレは使用中止になっていたのだ。」
ロイズは不満そうに「そうさ、だから2階のトイレを使った。」
それを聞いたゲンが思い出したように、「そういえば、2階に来ていたな。」
エマも同意し「ええ、ロイズを見ました。」
「僕は何もしていない!」ロイズは強く言った。
しばらくの沈黙のあと、マリーナは腕時計をちらりと見て、苛立ちながら
「もういいかしら、私、予定があるの。」
フェリックスは冷静に頷いた。
「それでは、皆さん、どうぞお戻りください。また後でお話することがあるかもしれません。」
その言葉を合図に、全員がステージから出て行った。
団長はその場に残り、ジョセフに近づいて
「ジョセフさん、折り入って話がしたいんだが。」
ジョセフは少し驚いたものの、すぐに了承した。「ああ、いいだろう。」
ポテトがジョセフの後を追いながら「ではボクも……」
しかし団長は首を横に振りながら「あ、ジョセフさんだけで結構です。」
ポテトは肩をすくめて不満そうに言った。「そうなんですか……」
ジョセフはポテトに向かって指示を出す。「フェリックスたちと調査を続けておいてくれ。」
そう言うと、ジョセフと団長は他の部屋に向かった。
ポテトは納得がいかない様子で呟いた。「なぜボクが手伝いに回る?」
フェリックスがワトリーとポテトに指示をだす。
「では、私はもう一度2階の調査を。ワトリーとポテトで詳しく事件当時のことを調べてください。」
ワトリー「分かったのだ」
フェリックスは2階へ向かい、ワトリーもポテトに声をかけた。
「ポテト、一緒についてくるのだ。」
ポテトはしぶしぶワトリーの後を追ったが、突然立ち止まり
「ん?ちょっと待って。普通ボクが先に行くべきでしょ!」
ワトリーは首をかしげながら、「そうなのか、ポテトはお手伝いなのだ?」
ポテトは憤慨して、「手伝いはあなた達のほうですからね!」と足早に歩き出した。
ワトリーは笑いながら後を追う。「分かったのだ。」
しかし、ポテトは再び立ち止まり、もじもじとしながら聞く。「あ、あの、それでどこに行けば……?」
ワトリーは優しく微笑み、「まずは詳しく事件当時の事を聞きにいくのだ。」
ポテトは頷き、「わかった、行こう。」
二人は肩を並べて歩き出し、事件の真相解明に向けて動き出した。
ワトリーとポテトは、エマがいる猛獣小屋に向かった。小屋の中から猛獣の唸り声が聞こえると、
ポテトはワトリーの後ろに隠れた。
ワトリーは小屋の中を覗き込んで言った。「いないみたいだね。」
その時、ポテトは背後に不気味な気配を感じ、振り返ると、
鉄仮面をつけた猫が立っていた。
「わぁあ!」とポテトは驚いて叫んだ。
ワトリーもびっくりして振り向いたがすぐに鉄仮面の猫に気づき笑顔で尋ねた。「エマはどこにいるのだ?」
ポテトは心の中で思った。(ワトリーは怖くないのか?)
ワトリーは続けて質問した。「君の名前は何?」
しかし、鉄仮面の猫からは返事がない「...」静かに立ち尽くしている。
その時、エマが小屋に戻ってきて2匹に声をかける
「名前はカオリよ。私が名付けたの。ほとんど言葉は話せないわ。」
「そうなのか。」
エマは微笑みながら「ええ、こちらが言っていることは少しわかるみたい。」
ポテト「な、なんで鉄の仮面を?」
「ふふ、知りたい?その仮面の下を見ればわかるわよ。」
ワトリーはカオリの包帯でぐるぐる巻きにされた手足を見て、
心配そうに尋ねた。「怪我をしているのか?」
「いいえ、こうしないとみんな不気味がって近寄らないのよ。」
ワトリーは悲しそうな目をして「そうなのか..でもエマは友達なのだ。」と言うと
「友達?団長に頼まれて面倒を見ているの、私は猛獣使いだからね。」
ポテトはエマに尋ねた。「猛獣ってクマとかライオンとか?」
「今はトラだけがいるのよ。」
ポテトは一瞬青ざめ、「ひぃ...怖くないんですか?」と怯えた声で言った。
エマは怖がっているポテトに優しく話しかけた。
「知ってる?私たち猫は、トラやライオンの祖先とも言える存在なのよ。
だから、彼らよりもずっと長い歴史を持っているの。私たちの本能には、
彼らを制する力が宿っているのよ。だから、何も怖がる必要はないわ。」
ポテトは不安そうに続けた。「で、でも食べられたりしたら?」
エマは自信満々に言った。「私は猛獣使いよ。」そう言うと、小屋から一本の釣り竿のようなものを持ってきた。
その先にはふわふわした毛玉がついている。それをゆらゆら揺すると、ポテトとワトリーが反応した。
「な、なんだ、体が勝手に…」「目が離せないのだ。」二人はそう言いながら毛玉を追いかけて遊び始めた。