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柔らかな光が、こぼれ落ちる。
夜の名残を少しだけ残した部屋の空気はひんやりしていて、布団の中はぬくもりで満ちていた。
みことはゆっくりと目を開けた。
視界のすぐ近くに見えるのは、穏やかな寝息を立てているすちの顔。
安心しきったように眠る表情を見て、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
「……すち」
たとえ声に出さなくても、その名前が自然に唇の内側で形をつくる。
小さな手をそっと伸ばして、すちの頬に触れた。
指先に伝わる体温が、やさしくて、心地いい。
「すち、ねてる……」
寝息が一定のリズムで続いている。
ときどきまつ毛がわずかに震えて、息がみこの頬をくすぐる。
そのひとつひとつが愛しくて、みことは胸の奥がくすぐったくなった。
「……ぅおはよ、すち」
小さな声で囁く。
すちのまぶたはまだ閉じたまま。
その寝顔を見つめながら、みことは少しだけ迷って、それからそっと身体を起こした。
布団の中で、ちいさな唇がすちの頬に触れる。
ほんの一瞬の、やわらかい音。
“おはよう”のかわりの、ちゅう。
「すち……だいすき」
囁くように言ってから、また胸の中に戻る。
すちの腕に顔をうずめると、ほっとするような香りがした。
シャツの布越しに感じる心臓の鼓動が、ゆっくりとしたリズムで響いている。
その音に耳をすませていると、すちの腕がふと動いた。
寝ぼけたように、みことの背中を軽く引き寄せる。
「……ん……みこと……?」
まだ夢の中にいるような声。
みことは笑って、そっと答える。
「…ぅん、ここにいる…ぅおはよ、すち」
すちはうっすら目を開け、ぼんやりとみこの頭を撫でた。
「おはよう」と返す声は掠れていて、でも優しかった。
二人のあいだを朝の光がやさしく照らす。
そのまま、もう一度寄り添うように目を閉じるみこと。
すちは小さく笑って、まだ眠たそうなまま腕の力をゆるめなかった。
――いつもの朝とは違う、不思議でやさしい朝。
けれど、どんな姿でも、この時間が変わらずに続いてほしいと思えた。