「やっぱり、戻る時も釣られる形式は固定なんだな」
もはやモブ達の憩いの場となりつつあるメインルームでバックは息を整えていた。
大きなダメージを受けたはずのミナはわりとピンピンした様子で自室に戻っていった。
どうやらベタベタする体をシャワーで流したいらしい。
一方、ヴェインはというと回収した男を医務室に連れて行ったあと、河童猫の活躍をしたためるために日記を書きに行ってしまった。
どこまでも呑気すぎる…。
というわけでセイへの報告はバックの役目になったわけである。
「ワームドの中から人が出てきたとはね。医務室の彼?」
「ああ」
こういうイレギュラー回に限ってファンはついてこないんだよな。
そう悪態つくほどの絆はないが…。
「そうか…」
セイは重い空気感を醸し出していた。
「ワームドの男の容態はどうなんだ?」
「大丈夫。無事さ」
この船の“めいんさあば”さんとやらにアクセスできるセイの言葉だ。
おそらく本当の事なんだろう。
縁もゆかりもない男だが、やはり安全だと分かると胸をなでおろす。
「そのさ…。今回のワームド、結構強かったんだけど?」
「おそらくキャラを飲み込んで力を増幅させたんだろうね」
「そんなのありかよ!というか初耳なんだが!」
「僕も初めての経験だ。ワームドもバカじゃないって事だ。知恵をつけて進化している。そう。あえて言うならワームドXだね」
「嬉しそうに宣言するなよ。というかなんだよそのXは…」
「Xつけるとかっこいいだろ」
「当たり前みたいに言うなよ。反論するのもめんどくさい」
バックは思わずため息を漏らした。
「これからあんなのがウジャウジャやってくるのか?」
バックの中に重い感情が湧き上がってくる。
緊張感が血管を駆け巡るようだ。
「だから何よ!何も変わらないわ」
いないと思っていたミナの登場に驚くバック。
思わず後ろにのけぞる。
「同感だな。ウフッ!」
やはり隣には存在を認識していなかったヴェインが立っていた。
「急に声かけるなよ。ビビるだろ」
バックは早くなる鼓動を抑えるように息を深く吐いた。
「大げさね」
笑うミナとつられたように頬を引きつらせるヴェイン。
全く、他の世界の連中との距離感は未だつかめない。だが、
「まあ、お前らの意見は分かる」
そうさ。ワームドにXがつこうがつくまいが逃げ道は用意されていない。
すべては俺たちの世界のため…いや、ステーキのために!
「頼もしいね」
3人の決意を聞いてヴェインは嬉しそうに微笑んだ。
「そんなにおだてても何も出ないからな!」
胸がポカポカする。
たくっ!勘弁してくれよ。
俺はモブだから褒められる事に慣れてねえんだから。
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