テラーノベル
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職員室で担任の先生に挨拶を済ませ、泉は案内されながら廊下を歩いていた。
「茅野さん、緊張しなくて大丈夫だよ。 うちのクラス、明るい子が多いから」
先生の言葉に、泉は曖昧に笑う。
――明るい子が多い。 その言葉は、前の学校でも何度も聞いた。
“明るい”は、時に“残酷”にもなる。
胸の奥がざわつくのを、泉はそっと押し込めた。
教室の前に立つと、先生がノックして扉を開ける。
「はーい、みんな席についてー。 今日から新しい仲間が増えます」
ざわついていた教室が、少し静かになった。
泉は深呼吸をして、一歩踏み出す。
「茅野泉です。よろしくお願いします」
その瞬間、教室の空気がふわっと変わった。
「かわいくない?」「都会っぽい」「転校生だって」
ひそひそ声が耳に入る。
泉は笑顔を作りながら、指定された席へ向かった。
窓側の後ろから二番目。 そこには、茶髪のボブヘアの女の子が座っていた。
光に透ける柔らかい茶色。 肩につくくらいの長さで、少し外ハネしている。 大人っぽいのに、どこか儚げな雰囲気。
泉が近づくと、その子は驚いたように顔を上げた。
大きな瞳。 どこか影のある表情。
「……よろしくね」 泉が声をかける。
「……うん。よろしく」 その子は小さく微笑んだ。
その笑顔は、どこか寂しげで、胸に引っかかった。
-―この子、誰だろう。
名前も知らないのに、なぜか気になった。
そのとき、前の席の女子がくるっと振り返った。
「ねえ転校生ちゃん、どこから来たの?」
「えっと……東京の方から」
「えー都会じゃん!いいなあ!」
明るい声。 でも、どこか表面だけの軽さがあった。
「そんなことないよ。こっちの方が空気きれいだし」
「ふーん。ねえねえ、彼氏とかいるの?」
「い、いないよ」
「そっかー!じゃあ安心だね!」
安心”の意味が分からず、泉は首をかしげた。
その瞬間、隣の茶髪ボブの子―― 後に“紗良”と知る少女が、ほんの少しだけ目を伏せた。
――どうしてだろう。 胸がざわつく。
チャイムが鳴り、先生が授業の準備を始める。
泉は窓の外を見ながら、そっと息を吐いた。
新しい学校。 新しいクラス。
泉はまだ知らなかった。
この日、隣の席に座った茶髪ボブの少女―― 住田紗良が、 自分の運命を大きく変える存在になることを。
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