1時間目が終わり、休み時間のチャイムが鳴った。
教室が一気にざわつき、あちこちで椅子が引かれる音が響く。
泉は筆箱を閉じながら、そっと周りを見渡した。
――転校初日の休み時間。
一番、苦手な時間。
そんな泉の机に、さっきの明るい女子が勢いよく近づいてきた。
「ねえねえ、泉ちゃん!」
「さっきはあんまり話せなかったから、もっと教えてよ〜!」
「え、うん……」
女子は勝手に泉の机の前に座り、にこにこしている。
「東京ってさ、やっぱり遊ぶところ多いの?芸能人とか見たことある?」
「えっと……そんなに特別なことは……」
泉が困ったように笑うと、女子はさらに身を乗り出した。
「ねえ、泉ちゃんってさ、彼氏いないって言ってたよね?」
「う、うん……」
「そっか〜。じゃあ安心だね!」
またその言葉。
“安心”って、どういう意味なんだろう。
泉が首をかしげたそのとき――
「ねえ、泉ちゃん」
別の女子がひそひそ声で言った。
「このクラスで仲良くしちゃダメな子、いるから気をつけてね」
泉は一瞬、息をのんだ。
――出た。
こういうの、前の学校でもあった。
「……誰のこと?」
女子は、泉の隣の席をちらっと見た。
茶髪ボブの少女。
窓の外をぼんやり見つめている。
「住田紗良。あの子とは仲良くしない方がいいよ」
泉は思わず隣を見る。
紗良は、誰とも話さず、静かにノートをめくっていた。
「……どうして?」
女子は口元を手で隠し、声を潜める。
「中学のときね、親友の彼氏を取ったんだって。それでクラスでめっちゃ嫌われてたらしいよ」
「え……」
「だからさ、泉ちゃんも気をつけて。ああいう子って、男の前だと猫かぶるから」
泉は言葉を失った。
隣の紗良は、そんな噂が自分のすぐ横で語られていることに気づいているのかいないのか、ただ静かに、窓の外を見ていた。
その横顔は――
寂しさを隠すように、少しだけ笑っているようにも見えた。
胸がちくりと痛む。
――本当に、この子がそんなことをしたの?
泉は噂を鵜呑みにできなかった。
なぜか分からない。
でも、紗良の横顔を見ていると、“嘘だ”と心が言っていた。
そのとき、紗良がふいに泉の方を向いた。
「……あの、さっきは……いや、なんでもない。よろしくね」
小さな声。
でも、真っ直ぐだった。
泉は思わず微笑んだ。
「うん。よろしく」
その瞬間、噂を流していた女子たちが、「え〜……」と意味深な視線を交わした。
――まただ。
前の学校と同じ空気。
でも、泉は目をそらさなかった。
紗良の瞳は、噂の内容とはまるで違う、どこか壊れそうなほど優しい色をしていた。
泉は思った。
「この子……放っておけない」
このとき、泉の中で何かが静かに動き始めた。






