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モノクロナツキ
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#オリジナル
モノクロナツキ
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モノクロナツキ
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朝食の後、弦さんと洸くんの勧めでシャワーを借りることになった。徹夜明けの体に温かいお湯が染み渡り、疲れも全て流れ落ちていく。脱衣所を出ると、そこには新品の下着と、丁寧に畳まれたモコモコのルームウェアが用意されていた。
「これ、着替え置いとくからな!」
やけに大きな声で、弦さんがバスルームの外から楽しそうに言っていた理由はこれか。ほんま、あの人は人のことを揶揄うのが好きなんやから。
流石に3人の前に、好きな人から借りたジェラピケを着た自分が颯爽と現れる姿は、想像しただけで気恥ずかしさが勝ってしまう。
それでも、すでに目の前のドラム式洗濯機の中でグルグルと回っている自分の服を取り出すわけにもいかず、諦めてそれに袖を通した。ふんわりと柔らかい手触りがどこか洸くんを連想させて、着るだけで心臓がバクバクと音を立てる。
リビングに戻ると、さっきまでのにぎやかさが嘘のように静まり返っていた。
ソファにぽつんと座っていた洸くんが、僕の姿を見るなりパッと目を輝かせる。
「あ、新くん! うわ、かわい~! よく似合ってる!」
洸くんはそう言って、子供のようにはしゃぎながら僕に駆け寄ってきた。
「新くん、背ぇ高いからどうかなって思ったけど、めっちゃ似合ってる!」
「あ、ありがとうございます……。こういうの着慣れてなくて……でもすごく着心地がよくていいですね」
部屋をちらっと見回しても、他の2人の姿はない。あの2人がいたら、絶対に僕のことを揶揄うような目で見てくるやろうから気恥ずかしかったけれど、こうして洸くんと2人きりなら話は別だ。
「そう、ふわふわやと、気持ちいいからよく眠れるよ?」
そう言って、僕の服の裾をちょこんと引っ張り、自室へ引っ張っていく。
「あの……弦さんと空くんは?」
「ん? 2人なら、人の少ない午前中のうちに買い物を終わらせてくるって、もう家出たで」
「えっ」と思わず声が裏返る。
まさか、本当にこの広い空間に、洸くんと2人きりになってしまったというのか。なんとなく予感はしていたものの、確定されるとそれはそれで一気に緊張感が増してくる。
「ほら、新くん眠いやろ? こっち来て」
「お邪魔します……」
緊張しながら足を踏み入れた洸くんの部屋は、美容師らしくお洒落で、綺麗に整頓されていた。──けれど。
「ピカチュウ……」
一つの棚に、容赦なく置かれたピカチュウのフィギュアやぬいぐるみの数々。もしかして、ジェラピケを着てるのは、洸くんもポケモンになろうとしてるからやろか。
「可愛いやろ? 大好きやねん」
洸くんはぬいぐるみを一つ手に取ると、自分の顔の横に並べて、満面の笑顔で僕に見せてきた。そのあまりの破壊力に思わず、ぷっと吹き出してしまった。
「ん? なによ?」
照れくさそうに眉を寄せる洸くんに、僕は素直な感想を伝える。
「似てるなって」
そう言いながらもう一度吹き出すと、
「揶揄ってんのか褒めてんのかどっち?」
と、照れながらぷんぷんと怒っている。ほんまに愛おしくて可愛い人や。
この人が今俺のものなら。遠慮なくこの腕に引き込んで抱きしめられると言うのに。
洸くんとの『友達』という名の枷が、今の僕には少し重い。
今、こうして2人きりの空間を、彼はなんの疑いもなく僕と過ごしてくれている。なのに、以前に本心を試されていたときのことを思い出すと、「これもまた『友達』としての技量を試されてるんじゃないか」と、どうしても不安が頭をよぎってしまうのだ。
「……どっちも、可愛いって褒めてるんですよ」
僕が心を込めてそう伝えると、洸くんは「もう、早く寝なさい!」とお母さんのように笑いながら、僕をベッドへ押し込んだ。
「……洸くん、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
大好きな人のベッド、大好きな人の匂いに囲まれて、一介のオタクである僕がまともに眠れるはずがない──。そう思っていたものの、少し冷たい部屋の空気と、ふわふわの服の抜群の着心地。そして部屋に満ちていくラベンダーの香り。
その優しさに包まれるうちに、徹夜明けの重い瞼は、いつの間にか深い眠りへと落ちていった。
◇
頬に、柔らかくてふわふわした何かが触れる感触がして、ゆっくりと目を開ける。
視界が焦点を結ぶと、すぐ目の前に、僕のほっぺをピカチュウの手でつんつんとつつきながら、悪戯っぽく笑っている洸くんの顔があった。
「ふふ、やっと起きた。もう夕方やで? 新くん、今日もお仕事やろ?」
「はっ……!? す、すみません!!」
跳ね起きるように枕元の時計を見ると、本当に夕方のいい時間になっていた。
2時間くらい寝て、仕事前に洸くんとお揃いのカップを買いに行く約束だったのに、僕のせいで台無しにしてしまった。
「ごめんなさい、僕のせいでせっかくのお買い物の時間が……!」
さっきのピカチュウ洸くんの可愛さの余韻に浸る隙もなく、申し訳なさで勢いよく頭を下げる。すると洸くんはクスクスと声を立てて笑うと、ベッドの端に腰掛けて僕の顔を覗き込んできた。
「謝らんでええよ。買い物はまた違う日に行けばええだけの話やし」
そう言うと、洸くんは少しだけ上目遣いで僕を見つめた。
「……それに、また会える日が1日増えて、良かったやん。あの、パーマの日みたいにさ?」
「っ……!!」
あの日、僕が別日に会う口実として仕掛けたあの『おかわり作戦』が、完全にバレていたということか。
悪戯に小悪魔チックに笑う彼の顔を見て、この人には絶対に嘘はつけへんなと、心の底から思った。
「はい、これ。新くんの服、洗って乾燥機かけといたから」
洸くんから手渡されたのは、すっかり綺麗になって、温かい匂いがする僕の服。
「脱いだ服はここに置いたままでええよ。その下着は秀太にぃの新品ストックから出したやつやから、プレゼントするわ」
洸くんはそう笑って、一足先に部屋を出ていく。
あー、もう……! あと1時間でも早く起きられていれば、2人きりの甘い時間が過ごせたかもしれないのに。たとえそれが試されている時間だとしても、それすら僕にとっては幸せな時間に違いなかったのに。
僕がモヤモヤと悔やみながらも着替えてリビングへ出ると、まるで待ち構えていたかのように、ニコニコとした洸くんが寄ってきた。
「3回」
「え?」
スッと3本の指を立てて、僕の目の前に見せてくる。その様子にキョトンとしていると、洸くんは本当に嬉しそうに声を弾ませた。
「パーマ、仕込み見学、お買い物。新くんとの約束、いっぱい溜まっていくな?」
「……はい。全部楽しみです」
ドクン、と胸を激しくときめかせながらそう答えると、彼は、
「俺も」
と、とびきりの笑顔で返してくれた。
これは……これは、期待してええやつでは?
でも焦ったらあかん。前のときもそうやった。たくさんのLINEメッセージも、会えば甘えてくれたあの瞬間も、全部が洸くんの「演技」やった。
せめて、これから重ねるその3回の約束の中で、洸くんが本当に僕を好きになってくれるような奇跡を起こしたい。そして、それが確信に変わる瞬間が来たら──もう一度彼に、僕の本気の気持ちを伝えよう。
「じゃあ、新くん。──いってらっしゃい!」
「はい、いってきます」
手を振りながら、パタン、と閉まった扉の前で、僕はしばらく動けなかった。
洗いたての洋服に、「いってらっしゃい」の見送り。
これ、ええように考えたら……まるで新婚さんみたいやな。
ジャケットを羽織り、マンションを後にする。
夕暮れの少し肌寒い春風が吹く道すがら、ジャケットの胸元から、制服の黒ポロシャツに染み込んだ洸くんと同じ香りがふわりと立ち上って、僕の鼻をくすぐった。
これから仕事中、ずっとこの香りに包まれながら過ごせる嬉しさと、今日の一連の出来事を思い返すだけで、仕事場に向かう足取りは自然と軽くなり、どうしてもニヤニヤと口元が緩んでしまうのを止めることができなかった。
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