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#若井滉斗
ort0__
17
#もとぱ
大福
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#ごほんにんには関係ありません
Sake 🍏💗
6,684
都の中心にそびえ建つ、高い塔。
その最上階の広間。
一段高くなっている畳の上、中心に置かれた丸い鏡。
その前に、私は静かに腰をおろした。
四隅の燭台には、ろうそくの炎が揺れている。
私が座ったのを見届けて、控えていた侍女が、するすると音もなく四方のすだれを下げていく。
私のいる場所が、周囲とは仕切られた、「神聖な空間」になる。
目を閉じて、精神を鎮める。
やがて、幾人かの「大人たち」が私の居る広間に入って来る。
「大人たち」はすだれの中には入ることなく、畳の上に上がることもない。
すだれの外に腰をおろし、私の言葉を待っている。
「……本日は?」
すだれの中から私が尋ねると、すだれの外に居る大人たちの気配が少し動く。
「は。実は……」
「間もなく、涼架様が13の歳を迎えますゆえ」
「結婚の相手を占っていただきたく、こうして参りました」
───そうか。もう涼ちゃんも13歳……。
そろそろ、相手を決めなければならない時期。
結婚自体はまだ先だろうけど……。
この国には、3つの王家が存在する。
領土を三分割として、中央を治めるのが涼ちゃんの一族。
西を治める、私の一族。
そして、もうひとり。
東を治めるのが、滉斗の一族。
私たち3人は、一族の王位継承権を持つ、皇子と呼ばれる立場だ。
3つの王家のうち、一番大きく、財力があるのが涼ちゃんの一族。
その涼ちゃんの結婚は、この国では大きな意味を持つ。
結婚相手となる一族は大きな財力を手にすることになる。
故に、争いの種になりやすい。
そこで、涼ちゃんの一族はいつも、皇子が13歳を迎える頃、占いで結婚相手を決めてきたのだ。
そして、その占いをするのが、代々神に仕えてきた私の一族の役目。
私はまだ10歳。
でも、私の一族では、年齢は関係なく、神の言葉を聴く力が一番高い者が長となる。
そして、私は7歳で長の座に就いた。
以来、あまり外界と交わることは許されず、この高い塔の最上階で、政治、戦、金、農耕、婚姻、といった事柄について神の言葉を尋ねに来る「大人たち」の事象を占い、それを伝え続けている。
あまり外には行けないけど、年齢が同じで幼馴染みのように育った滉斗と、良き兄のような涼ちゃんが時折ここに遊びに来てくれる。
彼らと一緒に居られる時だけが唯一、安らげる。
でも、その涼ちゃんも、もう13歳。
結婚相手を決める年になるのだ。
いつまでも子供のように、3人で共に時間を過ごすことは出来なくなるのかと、少々寂しくなる。
けれどそれも、仕方のないこと。
私の宿命。
「……承知しました。では、涼架様のご結婚のお相手を、占わせていただきます」
ごくり、とすだれの外にいる大人たちが、息をのんだのが分かる。
占いの結果は、絶対。
相手が3つの王家の一族のうちの誰か、もしくは貴族ならば相手としては相応しい。
でも仮に、どんなに身分が低く、貧しい一族の娘が選ばれたとしても、神に尋ねた以上、そして神が答えを示した以上、その者と結婚する責任を負う。
この国の適齢期の娘たちにとって、涼ちゃんの花嫁になること以上の誉れは無いはず。
「大人たち」の様々な欲望や思惑が、入り乱れて、空気に漂っているのが分かる。
それをなぎ払うように、ぱんと強く手を叩く。
しん、と空気が鎮まるのを待って、目の前に置かれた、にぶく輝く鏡を見つめる。
『……神よ。
この国を護る神よ。
つつしんで、お尋ね申し上げる。
中央を治める一族の子、涼架。
健やかに育ち、間もなく13の年を迎える。
この者が婚姻の儀を行い、
生涯を添い遂げる者の、
その名と顔を、
この鏡に映していただきたい……』
となえると、ふっ、と燭台のろうそくの炎が揺れた。
応じるように。
答えるように。
鏡に、ぼんやりと少しずつ、人の顔が浮かび上がってくる。
そして、その名は……
その、名は……
「───これは…………」
動揺して、思わず震える声で呟くと、すだれの外で息をのんで待っていた大人たちが、
「元貴様?どうされました?」
「一体、誰が映ったのです?」
「神は、なんと仰っていますか……!?」
全身が震えて、止まらない。
着ている着物のすそを、ぎゅ……っと握る。
伝えなくては。
それが私の、
神の言葉の代弁者としての、役目なのだから。
早く。
早く……
「……占いの結果を、お伝えします。
神が、鏡に映してお示しになりました。
涼架様の結婚の相手は、
東を治める一族の子。
滉斗、だと」
「───なっ……」
大人たちが、口々に驚きの声を上げる。
「な、なんと?」
「男子とな……!」
「しかしそれであれば、東との関係も安泰か」
「東は、武力に秀でた一族。皇子の滉斗様も、相当な剣の使いと聞く。なんでも、自分の身の丈ほどの大きな剣をやすやすと振り回してみせるとか」
「遠い昔にも、男子同士の婚姻の例はあったと聞いたことはあるが……」
「さっそく、東に使いを出そう。婚約の儀を行わなければ」
「しかし、子作りは?世継ぎはいかがする?」
「妾を取れば済む話。どうにでもなる」
「……ですが、」
思わず言い掛けた言葉を、こくりと呑み込んだ。
───そうだ。
私は、ただの人形。
神の言葉を告げるだけの。
「私自身」の意思、言葉など、誰も求めていない。
いや、それ以前に、私の小さな声など、実際誰にも聞こえていないらしい。
「大人たち」は皆、「これから」の段取りを話し合いながら、慌てた様子で部屋を出て行ってしまった。
ぽつん、と一人残された部屋で、今は何も映さない、にぶく輝く丸い鏡を見つめる。
───中央を治める一族の皇子、その婚姻相手が決まったのだ。
東の王も、断る理由は無いだろう。
きっと近々、婚約の儀が両家で盛大に行われる。
そして彼らが成人する頃、皆に祝福され、春咲く花のようなそれはそれは美しい結婚式が行われる筈だ。
(……私は……)
私は?
……祝福できる?
結婚おめでとう、とあなたに云える?
鏡の中にあなたが映った時。
そのまま鏡を、粉々に割ってしまいたかった。
何も見えなかった、と偽って。
もしくはだれか適当な、貴族の娘の名前でも告げて。
自分の能力を、生まれを。
───この日私は、心底、呪った。
ずっと書きたかった
ほんのりクスシキ風味のお話
すごく自分の趣味に走った内容で恐縮です