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高地は、食堂で4人と並んで夕食を摂っていた。
いつもは作業所の仕事でみんな時間はバラバラだけれど、今日は珍しく揃っていた。だからお喋りの口も止まらない。
北斗も、すっかり打ち解けて楽しそうにしている。
そしてそこには大我もいた。5人の輪からは外れて食事をしているが、ときどき彼らのほうをちらりと見ている。
「ってか、俺花火見るのって久しぶりだな」
ジェシーがふと言う。
「俺も」と慎太郎はうなずく。「高校のときに花火大会に行ったけど、大変だったからそれきり行かなくなっちゃって」
「そのときって、車いすだったの?」
高地が訊く。
「そうだよ。でも今回は楽しみ! みんなと一緒に行けるなんてさ」
夏休み旅行には、新参者の北斗に加えて、今まで参加することのなかった大我も行くと言ったのだ。
会話が書き起こされたスマホの画面を見た樹もうなずく。
「できるかわかんないけどさ、みんなで夏祭りも行きたいね」
とジェシー。
「なつまつり!」
北斗は嬉しそうだ。
「そうだねぇ。綿菓子とか食いたい!」
慎太郎がまた笑みを見せる。
『その会場、屋台もあるってスタッフさん言ってたよ』
樹が入力したその文章に、みんなは目を丸くする。
「え、こーち、会場に屋台あるんだって!」
ジェシーが言った。
「マジ? じゃあ綿菓子食えるかもじゃん。よかったな、慎太郎」
「やった! あのな北斗くん、花火大会に行ったら美味しいものがいっぱい食べられるんだよ」
「おいしいの、たべる!」
隅で会話を聞きながら大我が微笑んでいるのに、この5人はまだ気づいていなかった。
そのあと高地は自室に戻り、テーブルの上を手探りでリモコンを取る。右上の大きいボタンを押すと、まずニュースの音声が聞こえてきた。
座椅子に腰を落ち着けて、適当にチャンネルを変える。バラエティーだろうか、司会者の明るい話し声がして手を止めた。
視覚からの情報は何もなくても、楽しそうな笑いが聞こえるだけでもよかった。
背もたれに身体を預けながら耳を澄ませていると、「こーちー」と呼ぶ声がする。これはジェシーだ。
「開けてー」
「ちょっと待ってろ」
立ち上がって出入り口に向かい、ドアを開ける。ジェシーがやってきていた。
「入っていい?」
「いいよ」
脇に寄り、電動車いすが通れる道を開ける。最初に仲良くなったときに車いすを触って確かめたので、大きさはだいたいわかっていた。
「今何してたの?」
「テレビ聴いてた。これ、何の番組?」
「えーっとね」
ジェシーは高地の座椅子の隣に止め、「トーク番組だよ。最近人気の人たちがいる」
「ああ、だからか。聞いたことある声がするわ」
それから、ジェシーと高地は他愛もない話で盛り上がる。ジェシーが最近覚えたという歌をうたい始め、そっとそれに耳を傾けた。
「ジェシーは歌上手いね。歌手になれるんじゃない?」
「そんなことないよ…」
そう答えた声が少し暗いのが気になった。表情がわからないのがもどかしい。
「どうした?」
ううん、とジェシーは首を振る。「あ、そろそろトイレ行かなきゃ。またスタッフさんに怒られる」
声のトーンが高くなる。車いすを動かす機械音が響く。
「来た意味ないじゃんか」
「またすぐ来るよ。じゃあねー」
その言葉とともに、動作音が遠ざかっていった。テレビがついているはずなのに、部屋がやけにもの寂しい。
高地はリモコンで電源を切った。
明日は、作業所で一般企業に就職するための訓練がある。早めに寝よう、と準備にかかった。
続く