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体の向きを出口に変えると、彼女は左斜めにいた。
俺の凍った首は真っ直ぐ出口を向いたまま動かず、脚はなぜか、彼女の横をすり抜けてしまった。
「待て。それじゃ、お前は後悔するぞ」俺の意志は言った。
「そんなこと言ったって、こんな状態じゃ手をつけばテーブルが震えるし、声を出せば声が震える」と俺の身体は答えた。
「でも、やるだけやってみるべきじゃないのか、お前らしくない」と意志は言った。
「らしくないって? 笑わせるなよ」知らない女の子に、意識して声をかけたことなどない。
身体は出口を抜けて廊下に出ていた。さらに、その先の建物の外へ出るドアについた真鍮のノブにまで手をかけている。
「逃げる気か」と意思は言った。
「最初から勝負は見えてる」と身体は答えた。
「ぶつかって自滅した方が、かえって夜眠れるぞ」
「でも、あんたがそんなコチコチじゃ」
心臓の鼓動が胸に手をつかずに伝わってくる。
ノブが下に動いた。ドアが三センチほど開いた。隙間から、太陽の光をたっぷり浴びたキャンパスの石畳が見えた。
「そっちじゃない」意志は叫んだ。そして手をノブから離させ、胴体を建物の内側へ向けさせた「このままなら、ますます身体も凍って、ますます声も震えてしまうぞ」
身体はカフェテリアの入り口と建物の出口の間の廊下を往復しはじめた。そこにスクール・ポリスの姿はなかった。校内警備にでも行ったのだろう。もしいたら、不審人物としてマークされているところだ。
「まず、店内に戻ってみろ」
脈の打つ音。
「な、やってみろよ」
内耳に響く、つばを飲み込む音。
「ほら、勇気をだして」
指先が紫色だ。
「な」
「ほら」