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#推しが尊い
『 雪 』@夏休み期間毎日投稿
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SOMAMON7A
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成瀬りん
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翌朝のこと。
俺とテオが訪れたのは、街の南側にある『職人街』。
ここでは武器・防具・魔導具など様々なアイテムが作られ、販売されている。
元々俺は、早めに『職人街』を訪れてみたかった。
いずれ作りたいアイテムは数多い。
神様から聞いた「現実よりもゲームのほうが、生産レシピの研究が進んでいる」という言葉も、頭の中に残っていた。
実際の工房を見学すれば、色んな意味で今後の参考になりそうな気がしたんだ。
ちなみにテオは、ひと通りの生産系スキルは使えるらしい。
ただしスキルLVが1なので、完成品の品質には期待できないとかで「アイテム作りは、腕が良い職人へ依頼するに限るっ」とはっきり断言していた。
生産系のスキルLVは『作るアイテムの品質』に大きく影響するからな……。
喜んで案内役を買って出たテオに連れられ、あちこち見て回る。
この辺りは、半分観光名所と化していた。
マップを見ながら、楽しそうに店を巡る観光客も少なくない。
あちこちの工房前で行われていたのは、特色のある実演販売。
武器、防具、魔導具……ゲームと同じ華麗な動きに思わず魅入ってしまう。
「見てタクト、ここの工房は『生活魔導具』が専門なんだ~」
「料理や洗濯に使えるやつだよな?」
「そう! 照明灯とか、保冷庫とか、洗浄桶とか……なかなか腕が良くてさ、俺の懐中時計もここで買ったやつなんだよね」
工房の前を通るたびにテオが詳しく解説してくれる。
そのおかげもあって、俺はしっかりと職人街を満喫することができた。
生産アイテムの品揃えや金額が、ゲームとほぼ同じだと分かったのも収穫だ。
ただし腕利きの職人が作るアイテムは、それなりに値が張る。
オーダーメイドともなると、例え素材持ち込みでも高額になってしまう。
正直な話、今の俺の懐事情では厳しいのが現実。
テオが「手持ちのお金貸そうか?」と申し出てはくれたものの、借りを作りすぎるのも悪いと断った。
今日のところは、自分の身の丈にあった金額で探すとしよう。
*************************************
職人街の外れのほうの、とある中古防具専門店。
「ここだよ!」
一足先に見つけたテオが建物へと入っていき、俺も後に続く。
明かりの魔導具に照らされた少し埃っぽい20畳ほどの店内。
そこには、様々な防具が所狭しと並べられていた。
ギルドや冒険者から買い取ったドロップ品や使い古しの防具が品揃えの中心だ。
手頃な価格で、そこそこの品を購入できるのが売りである。
店員は、小柄なドワーフ族ばかりだった。
カウンターには、防具を整備している年配の男性店員が2名、
陳列された品を整理している若い女性店員が1名。
「いらっしゃいませ。何か、お探しです?」
客が他にいなかったためか、すぐに女性ドワーフ店員が話しかけてきた。
「こっちの見習い剣士の防具を見立ててほしいんだけど――」
「鎧です、金属製のフルプレート!」
喋りかけたテオを遮るように、鼻息荒くはっきり答えた。
店員とテオは同時に「え?」と疑問の声を上げ、口々に反対してくる。
「……安いやつは重いですよ?」
「そーそー、タクトの戦闘スタイルには合わないって――」
「嫌だ!! 絶対フルプレート、これだけは譲れないからッ!」
俺はゲームが大好きだ。
もし自分があの世界に行ったら……という妄想をしたのは1度や2度じゃない。
そして実際に、剣と魔術で戦えるようになった今。
せっかくなら憧れの板金鎧。
中でも『フルプレート』と呼ばれる「頭からつま先まで、全身が金属板で覆われたタイプの鎧」を着てみたいと、ずっと密かに憧れていたのだ。
テオと店員は何とか説得しようとしてきた。
だが俺だって、長年憧れた貴重なチャンスを諦めるわけにはいかない。
猛烈に主張し続けた結果。
どうにか最安の鉄製フルプレートを試着させてもらえることになったのだった。
――結論から言おう。
俺は「フルプレート」を断念した。
どうにか中古防具店の女性ドワーフ店員とテオとを説得。
2人に教えてもらい、やや手間取りつつも憧れの板金鎧を初着用したところまではよかったのだが……。
最低限の可動域は、確保されている。
だが少し動くだけでガシャッガチャッとうるさい金属音がする。戦闘中に敵の背後から忍び寄ったり、敵に気付かれないようこっそり横を通り過ぎたり、といった立ち回りは確実に無理だろう。
そして何よりものすごく重い。
女性店員によれば、この鎧は「あまり腕の良くない職人」が作ったものなのだとか。
全体的な造りが洗練されておらず、特に各パーツの出来が悪くて無駄に分厚く重くなっていることから、総重量は通常の金属鎧より重めで軽く数十kgはあるらしい。
その重さが体中にのしかかり、風通しも悪いため、立っているだけで汗が吹き出してきそうな気さえする。
だが店内商品のうち、俺の手持ちの金で買える板金鎧はこの1点のみ。
これより質が良い品はどれも予算オーバーだったのだ。
ゲームの防具類において気にすべきは、着用時に変動する能力値――例えば「物理防御力+5」といったように――や、付与されている効果のみ。もちろん中には一部専用装備も存在したが、それを除いてはどれも自由に装備することが可能だった。
プレイヤーが勇者や仲間キャラの装備を選ぶ場合、基本は性能や見た目だけを基準にすればよかったのである。
だが現実世界ではそうもいかないらしい。
現在の自分に、板金鎧は無理。
そう悟った俺は、このままじゃ売り物を汗などで汚しかねない……ということで、ひたすら謝りながら、「大丈夫ですよ」と笑顔で答える女性店員に手伝ってもらい、すぐに鉄のフルプレートを脱ぐことにした。
その後、女性店員とテオに見立ててもらったのは『革の軽装鎧』。
たまたま俺の体型にぴったり合う中古品が、100Rという超お手頃価格で店に並んでいたのだ。
硬化させた革で胸部・肩・腰・前腕が覆われていて、各部位のパーツはそれぞれ分割されていることもあって全く動きの邪魔にならず、総重量は大変軽い。そのぶん防御力はそこまで高くないけれど、何もつけない時より怪我をする確率はぐんと減る。
試着した俺は、先程の鉄鎧との着心地の違いに驚いて即購入を決めた。
なお女性店員によると、金属鎧にも色々種類があり、材料に軽めの金属を使用したり【軽量加工】スキルなどで軽くしたりした鎧で、かつフルプレートにこだわらず体型や動き方にしっかり合う形状なら、俺でも楽に扱える可能性が高いらしい。
ただしそのようなタイプの鎧を1から作る場合、材料費や手間賃などで総じて高価になるのだという。
いつかお金を貯め「自分でも着こなせる金属鎧を手に入れる」という新たな夢ができたのだった。
防具店を出た俺達は、エイバスの街中の店をいくつか回り、旅に必要だと思うものを色々と調達していく。
念のため、テオおすすめのダンジョン必需品アイテムは一通り購入しておいた。
特に食料品に関しては、過去の苦い経験――空腹でHPが0になりかけた――がある。しかも【収納】内は時間経過が無く、中に入れた物が腐る心配は無い。
ということで調理無しで食べられる出来合い料理を中心にこれでもかと買い込む。
テオには「ダンジョンに何ヶ月こもる気なんだよ……」と呆れられたけど、何があるか分からない以上、背に腹はかえられない。
1日分の宿代程度の金額のみを残して有り金を使い切った結果、俺の【収納】は食料品でほぼ満杯になったのだった。
その夜、宿屋・野兎亭の客室にて、俺は翌日の出発に備え準備をしていた。
攻略サイトの『小鬼の洞穴』の記述を何度も読んで頭に入れたり、【収納】の中身を整理したり。
ある程度終わったところでふと窓際に目をやったところ、椅子に腰かけたテオが鼻歌交じりに磨いていたのは『槍』。
剣以外の武器を触るテオを見たのは初めてかもしれない。
「テオって槍も使うのか?」
「うん、場合によってはね。【槍術】スキルも持ってるし」
「なるほど、そのあたりの武術スキルも全部習得してるのか……」
称号『器用貧乏』の恩恵で、そのスキルLVは全て1ではあるものの、称号・アイテムのみで解放可能な固有スキルを除く全スキルを習得しているテオ。
……そういえば俺、普段のテオがどんな戦い方をしてるのか全然知らないぞ。
ゲーム中ではテオが戦う場面なんか1度もなかった。
現実でパーティを組んでからは、俺に教えるために少しだけ見本として剣を使って見せてくれた程度で、本気で戦う姿なんか見たことがないのだ。
「なぁ、テオの戦闘スタイルってどんな感じなんだ?」
「そーいや言ってなかったっけ。これからダンジョンに行くし……確かにもう少し手札は見せておいた方がいいかも!」
と槍を磨く手を止めたテオは、腰に付けた魔法鞄の中から順番に武器を取り出していく。
その全てが白銀色に輝く金属がベースの細身武器で、緑色の小さな宝石をアクセントにしたお揃いの優雅な装飾が施されていた。
「他にも持ってるっちゃ持ってるけど、普段あんまり使わないし……とりあえずメイン武器だけでいいかな。戦闘時は大体この辺りの武器を、地形や相手の魔物、一緒にパーティ組むメンバーの戦い方なんかに合わせて使い分けてるよ。それぞれの武器の詳細は【鑑定】スキルで分かるよね?」
「ああ」
テオが武器を一通り並べ終わったのを見計らい、早速まとめて武器を鑑定。
ついでに詳細も出しておく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
シュミルの魔銀短剣:物理攻撃力+45、魔術攻撃力+20、シュミル製作
シュミルの魔銀剣:物理攻撃力+68、魔術攻撃力+20、シュミル製作
シュミルの魔銀槍:物理攻撃力+72、魔術攻撃力+20、シュミル製作
シュミルの魔銀鞭:物理攻撃力+36、魔術攻撃力+20、シュミル製作
シュミルの魔銀弓:物理攻撃力+51、魔術攻撃力+20、シュミル製作
■神の一言メモ■
シュミルは相変わらず、美しさと実用性を兼ね備えた良い武器を作るのう。
師匠の腕をしっかり引き継いでおるわい、感心感心!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……シュミル?」
シュミルという名に聞き覚えこそあるような気がするものの、この広い世界には数えきれないほどの人が存在することもあって、いったいどこの誰だったかまでは思い出せない。
「シュミルはエルフの鍛冶屋で、とっても腕がいいんだよ。彼の作る武器が好きでさ……材料のミスリルを大量に持ち込んで、オリジナルのシリーズ武器を作ってもらったんだ♪」
「へぇ、オーダーメイドなのか」
そういえばゲーム中に出てきた『エルフの隠れ里』にそんな名前の男エルフがいたような気もするな。
俺自身は彼に生産依頼をした記憶はないけれど、目の前の武器のまるで装飾品かと思うような優美さからして、たぶん腕利きの職人なんだろう。
「製作依頼の時に、テオがこだわったポイントとかあるのか?」
「そーだな……出来るだけミスリルを多めに使ってもらうようにはしたよ。タクトと一緒で俺もそこまで元の力は強くないけど、ミスリルなら丈夫で薄く細くしても問題ないだろ? だから俺でも扱える軽く丈夫な武器が作れるんだよ。ほらここ! 鞭や弓のしなる部分も、糸状に特殊加工したミスリルをよりあわせてもらったんだぜっ」
武器を持ち上げて俺へと見せるようにしながら、説明を続けるテオ。
「他にもミスリルにこだわった理由があってさ。ミスリルは他の金属と違って、魔術と凄く相性がいいじゃん。だから――」
ここで気付いた俺が「あ!」と声を上げ、テオにたずねる。
「もしかして、【|魔術付与《》エンチャント】?」
「あったり~!」
ニカッと笑顔を見せるテオ。
ゲームにも存在する【魔術付与】は、火や水などの属性魔術を武器へと付与し、一時的にその属性としての力を武器へとまとわせることができるスキルだ。
敵の弱点となる属性の魔術を付与することで、通常の何倍ものダメージを与えられるようになるのが最大の強みである。
かつ属性付与状態で敵の弱点部位――魔物によって異なり、例えば首・腹・翼の付け根など――へと上手く攻撃をあてられれば、通常よりもさらにダメージを増加することも可能。
【魔術付与】自体はそこまで珍しいスキルではない。
とはいえ2属性以上の魔術を使いこなせる術者自体が貴重なため、様々な場面で有効な戦術として使い分けができる者は少数となってしまう。
そういう意味では、「火・水・風・土の4属性魔術と武術全般に適性があり、かつ魔物などに関する知識が豊富なテオのために存在するスキル」と言っても過言じゃないのかもな。
「なんか、テオにぴったり合いそうな戦い方だな」
「ありがとっ! ま、俺の場合はスキルLVが全部1だから、あまりにも能力差がありすぎると、どんなに弱点をついてもほとんどダメージを与えられないんだけどね……この間のオークジェネラルの時は、そもそも逃げるしかできなかったし……」
「まぁな……」
先日の出来事を思い出し苦笑いする俺達。
一撃でも食らえば即死しかねない攻撃を、凄い速さで繰り出しながら追いかけてきたオークジェネラルに、俺達は武器を構えることすらできず、ひたすら逃げ回ったのだった。
ちょっと暗くなってしまった空気。
それを振り払うように、俺は明るく言う。
「でもさ、明日から向かう小鬼の洞穴じゃ、向かうところ敵なしだと思うぞ!」
テオはフッと笑って「……確かに!」と答えた。
攻略推奨LV5のダンジョン・小鬼の洞穴。
LV38のテオと、LV7の俺なら、少なくとも苦戦することはないだろう。
さらにその先は……またの機会に考えればいい。