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「やめろォォォォ!!」
モトキの叫びが響く
重力に押し潰されながら、
それでも腕を伸ばす。
届かない
あと少しなのに
リョーカは振り返らない
黒い光は、
もう抑えきれないほど膨張していた。
空間が裂け、
周囲の瓦礫が浮き始める。
ヒロトが歯を食いしばる
「リョーカ!! ふざけんな!!」
リョーカが少しだけ笑った
「ごめんねぇ」
その声は、
いつもの調子だった。
「二人とも、泣き虫だからさ」
「……ッ」
モトキの視界が滲む
嫌だった
こういう終わり方が
誰か一人が犠牲になるのは
ずっと
ずっと嫌だった
だから青リンゴ商会を作ったのに
誰も見捨てないために
その時
リョーカが静かに呟く
「……でもね」
黒い光の中
壊れた身体のまま、
彼は確かに笑っていた。
「ボク、幸せだったよ」
次の瞬間
空が落ちた
■■■■■■■■■■■■
音が消えた
光だけがあった
白
白
どこまでも白
モトキは、
自分が立っているのか倒れているのかも分からなかった。
遠くで、
誰かの声がする。
『RX-00消滅確認』
『接続断絶』
『ヴェルトラウム中枢損傷率42%』
ノイズ
悲鳴
怒号
無数の声
その全部が、
だんだん遠ざかっていく。
やがて
静寂
■■■■■■■■■■■■
目を開けた時
雨が降っていた
冷たい雨
崩壊した都市を濡らしている。
モトキは瓦礫の上で目を覚ました
全身が痛い
腕も折れている
血の味がする
だが
生きていた。
「……ヒロト」
掠れた声で呼ぶ
数秒後
「……生きてる」
近くの瓦礫が動く
ヒロトだった
ボロボロだった
半分炭化している
それでも再生しながら、
苦笑していた。
「しぶてぇな俺ら」
モトキは周囲を見る
静かだった
あれほどいたバグが、
一匹もいない。
空を覆っていた巨大な目も消えている
ただ雨だけが降っていた
終わったのだ
全部
「……リョーカは」
聞いた瞬間、
ヒロトの顔から笑みが消える。
沈黙
それだけで、
分かってしまった。
モトキは俯く
雨が髪を濡らす
紫の毛先から雫が落ちた。
「……そっか」
声が掠れる
ヒロトも何も言わない。
言えるわけがなかった
その時
ピコン。
小さな電子音
モトキが顔を上げる
瓦礫の奥
黒焦げの金属片が、
微かに点滅していた。
二人は近づく
そこにあったのは
リョーカの“心臓部”だった。
小さな機械
かすかに光っている
「……」
ヒロトが目を見開く
モトキは震える手で、
それを拾い上げた。
すると
ノイズ混じりの音声が流れる。
『――あー、聞こえる?』
二人の呼吸が止まる
リョーカの声だった。
録音
最後のメッセージ。
『えっとね、多分ボク死んじゃうから、先に言っとこうと思って』
少し笑う声
いつもの、
ふわふわした話し方。
『モトキくん』
『ヒロトくん』
『ありがとう』
モトキが俯く
肩が震える
『ボク、自分が何なのかずっと分かんなかったんだ』
雨音
ノイズ
『でもね』
『二人といた時間だけは、“本物”だった気がする』
ヒロトが顔を覆う
『だから』
『もし生まれ変われたら』
少し間
『今度は、ちゃんと人間になりたいな』
通信が途切れる
静寂
雨だけが降っていた。
長い沈黙のあと
ヒロトが小さく笑う
泣きながら
「……なれるに決まってんだろ、バカ」
モトキは何も言えなかった。
ただ
無意識に小さな心臓部を、
強く抱きしめていた。
冷たい雨の中
青リンゴ商会のは、
初めて声を上げて泣いた。
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