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「私、離婚しようと思う」
口にしてしまったその言葉の重みに
身が引き締まる
軽はずみな言葉でも
咄嗟に出た言葉でもない
常々頭の片隅には在った言葉
それが
見えているのに
優柔不断が故に
見て見ぬ振りをして
口にすることが出来なかった
決意が必要な重い言葉
リュカと二人
社長室のソファに座り
二人寄り添い
窓の外を眺める
私がその言葉を発してから
どのくらい経っただろう
数秒?
それとも数分?
横並びに座った私には
リュカの表情を伺い知ることができない
振り向き
覗き込み
リュカの表情を確認する勇気もない
問いかけたわけでもない
思いを発しただけの
いわば独り言のような言葉
それでいて
今の私たちにとって
大きな意味を成す重い言葉
普段なら
即答するリュカの
即答しない様に
一抹の不安を覚える
リュカの言葉を真に受けるならば
リュカが本当に私との未来を望むのならば
離婚の話題は
もっと早く挙がって然るべき
それでもリュカは
離婚の話題を
これまで口にしてこなかった
その事に
意味があるのか
はたまた
意味などないのか
私には伺い知れない領域
でも
リュカを知った今なら分かる気がする
自分がどうしたいのかが大事
自分が決めないといけない
思えばリュカは
繰り返しずっと言っていた
優柔不断な私の本心からすれば
たとえ強引にでも手を引っ張って欲しい
純真無垢な私の乙女心からすれば
たとえ強引にでも奪い去って欲しい
既婚の私がそれを口にするのは
とても勇気が要ること
純也との子を身籠った私には
とてつもない決意が要ること
それを口にした時
リュカの思いが本心なのか
明らかになってしまうのが不安で
離婚に踏み切った時
リュカの気持ちが変わってしまわないか不安で
言い出すことができずに
ただ時間だけがいたずらに過ぎてしまった
そんな私の内面を
リュカが気付かないはずがない
それでいて尚
リュカは自分から口にしなかった
自分の事を
自分が言えないからとおざなりにして
その役割を
他人に期待する
その責任を
他人に負わせる
そんなの
ただの責任転嫁でしかない
ただの逃げでしかない
嫌だ辛いと喚きながら
ぬるま湯から抜け出す勇気がないだけ
新たな未来に飛び出す決断ができないだけ
決断は怖い
後戻りできない
決断の先に
数多の障壁がある
そう怯える私を
リュカはただひたすら待った
それは
私の意志を尊重する優しさと
自分で決心することを求める厳しさ
決断力のあるリュカにとっては
いとも容易いことだろう
それをできない私を
リュカはただひたすら待っていてくれた
自分の望む未来に無理矢理私を引き込まず
私が決心できるまで
そのリュカの優しさは
私にとっては厳しい試練
——天は自ら助くる者を助く
自分が新たな未来を望まなけば
自分が決断に至れなければ
加護はない
リュカを信じると
リュカと未来へ踏み出すと
私はようやく決心した
発した言葉は
私史上最も重い決意
ポンッ!
頭部に感じる軽い感触
その感触に釣られて
思わず顔を上げる
頭上に見上げるリュカは
微笑んでいた
私の頭に手を置き
私の頭を撫でてくれた
「頑張ったね」
「本当に色々あっただろう」
“ 狼は嗅覚と視覚を駆使して相手の感情や状態を敏感に察知する—— ”
この人は
どこまで私の内面が解るのだろう
この人は
どこまで私の心情が解るのだろう
それならばと
リュカに抱き着き
私の本心を唱えてみる
大好き!
私は心からあなたのことを
愛しています——
リュカは
胸元に顔を埋める私の顔を上向け
私の頬を撫でた
そして
キスをした——
「大丈夫、何があっても守るから」
***
自宅に居られず
自宅を飛び出した今朝
その一日は
思いがけず良い日になった
傾いた夕日に照らされながら
自宅への帰路を再び歩む
憂いよりも
希望が勝る
不安定な情緒も安定している
この先の近未来も
冷静に俯瞰して考えられている
食材を買い終え
戻った自宅に
純也の姿はなかった
憂うことなくキッチンに立ち
最低限の務め
夕飯の支度を済ませる
純也がいない自宅は
心が休まる
心持ちが変わると
世界が変わって見える
順調に家事を済ませ
シャワーを浴び
純也の帰宅を待つことなく
早々に床に就いた
長かった一日が
良い一日のまま
終わりを迎えた
***
日曜日の朝
平日よりも早く目が覚める
就寝が早かったからだろうか
ヴヴヴヴ……
早朝から届くリュカからのライン
この人は
本当にいつ寝ているのだろうか
私の体を気遣う文面に
思わず笑みが零れる
リュカからのメッセージを閉じようとした刹那
丁度届いた新着メッセージ通知を
誤ってタップしてしまった
タイトルのない
テキストメッセージを