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ある日、いつも通り稽古をしていると、不意にエドモンドが言った。
――お前、本気で俺を殺しに来てみろ、と。
一瞬何を言われたのか理解出来なかったが、すぐに意味を理解して背筋が凍った。殺気を向けられているのだとわかったからだ。でもそれを断ることは 出来なくて、俺は意を決して足を踏み出した。
そこからの記憶はあまりない。無我夢中で刀を振るっていたらいつの間にか終わっていて、気が付けば俺は地面に倒れていた。俺は体を起こすことなく、仰向けに寝転んだまま空を見つめていた。まだ頭がふわふわしてる。それに胸の奥底に何か重いものが沈んでるみたいな、そんな気分だ。
しばらくそのままボーッとしていると、誰かに顔を覗き込まれた。エドモンドだ。いつもは掠り傷程度のエドモンドだが、今日は全身ボロボロだった。俺のがボロボロだけど。
エドモンドは俺の顔を見て、ははっ、と笑った。
「大分強くなったな」
その言葉を聞いた途端、今まで堪えてきた感情が爆発しそうになった。必死に歯を食い縛って耐えるけど、鼻の奥がツンとして痛い。視界がぼやけて何も見えなくなる。でも涙だけは零すまいと、俺は唇を強く噛む。
俺が泣きそうなことにエドモンドが気付いたのか、彼は困ったように笑って俺を抱き寄せてくれた。そして背中をさすってくれる。
「こんなに怪我負ったのは十数年ぶりだ。どうやら俺は弟子を強くしすぎたらしいな」
「……もう少し欲しい」
「……ふはっ、貪欲だな」
エドモンドは可笑しそうに笑いながら言う。その声色は優しくて温かい。その温もりに甘えて、俺はエドモンドの胸に顔を埋めた。