テラーノベル
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夜、ベッドに寝転びながらスマホを手にした元貴は、胸の奥でくすぶる想いを抑えきれずにいた。
——涼ちゃんの家に行きたい。
ただの仲間としてかもしれない。
けれど、それ以上の期待をしていることを自分でも分かっていた。
「明後日オフだから、涼ちゃんの家行っていい?」
そう打ち込んで、親指が送信ボタンに触れる瞬間まで、心臓は速く跳ね続けていた。
数秒後、返事が返る。
「いいよ」
短い三文字にすぎない。
けれど胸がじんと熱を持ち、思わず布団に顔を埋めてしまう。
子供のように心を躍らせる自分が、どうしようもなく可笑しかった。
──そして当日。
玄関先のチャイムを鳴らすと、藤澤はいつもと変わらぬ微笑みで「いらっしゃい」と迎えてくれた。
その自然さに安堵するはずなのに、なぜか背筋がひやりとした。
空気の奥に緊張感のようなものを覚えたのは気のせいだろうか。
「パスタ作ってるから、座って待ってて」
キッチンに立つ藤澤は、フライパンを振り、慣れた手つきでニンニクをオリーブオイルで炒める。
香ばしい匂いが広がり、ワインとトマトの酸味が部屋を満たしていく。
その姿を眺めているだけで、胸がまた早鐘を打ち始めた。
やがて皿に盛られたパスタがテーブルに並ぶ。
「おお……うまそう!」
「ほら、食べて」
二人で食卓を囲み、他愛もない話をしながら食事を楽しむ。
隣に置かれた炭酸飲料を口にした瞬間、甘さの中にかすかな苦味を感じたが、すぐに気にしなくなった。
——だが。
「なんか……眠いな……」
フォークを持った手がふらつき、視界が滲む。頭が重たく、瞼が落ちていく。
「ごめん涼ちゃん……せっかく来たのになんか眠くて……」
言葉を最後まで言い切る前に、ソファへ身を沈め、そのまま深い闇へと引きずり込まれていった。
──どれほど時間が経ったのだろう。
意識が戻ると、まず耳に届いたのはかすかな金属音だった。
カチャ……カチャ……と微かに揺れる音。
その感触が自分の両手首にあることに気づき、心臓が跳ね上がる。
「え……」
見下ろせば、裸の身体に足枷と手錠。
冷たさが皮膚を締めつけている。
「なんで……」
慌てて周囲を見渡すと、部屋は真紅の照明に照らされていた。
壁際にはロープ、鞭、鉄の輪が整然と並べられ、まるで舞台の背景のように支配的な空気を放っている。
「……どういうこと……?」
声が震えた。
「何って……お前が望んでたことだろ?」
背後から低い声が響いた。
振り向いた先に立つ藤澤。
その表情は穏やかで、どこまでも静かで……それなのに狂気を孕んでいた。
「俺、全部聞いてたんだ。お前が一人でしてるときも……欲しいって呟いてたのも」
耳の奥に、過去の自分の声がよみがえる。
震えながら名前を呼び、支配を求めるような独白。
「……嘘……だろ」
目が潤む。
藤澤は淡々と告げる。
「嘘じゃない。GPSも盗聴も、ずっと前から指輪に仕込んである。……元貴のこと、全部知ってる」
元貴は藤澤にもらった指輪を見つめた。
言葉を突きつけられ、恐怖に凍りつくはずなのに。
胸の奥で何かが熱を帯びていくのを、元貴は感じた。
「だから——今から、お前の願いを叶えてやる」
そう言って藤澤はゆっくりと歩み寄り、目隠しを手に取る。
視界を覆われる瞬間、最後に見たのは、赤い光に浮かび上がる藤澤の瞳だった。
暗闇に閉ざされ、心臓の鼓動が耳の奥で轟く。
逃げ場はない。
そして何より、逃げたいと願う気持ちよりも、「支配されたい」という疼きを無視できない自分がいることに、元貴は気づいてしまった。
コメント
2件
束縛してる〜!!大森さんうれしそ〜!!続き続き(*ˊᵕˋ*)