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『リアン大聖堂に行きたい』……私の発言は皆を驚かせた。こういう反応をされることは想定内。でも、そんな中で唯一……ルーイ様のどこか嬉しそうで、期待に満ちた眼差しだけは印象的だった。やはり私の考えていることなど彼には全部お見通しだったみたい。私が前向きに行動を起こすことを歓迎してくれているように感じた。
「さあ、クレハ様。お手をどうぞ。足元に気を付けて……」
「ありがとうございます、レナードさん」
「体はまだ本調子じゃないんだから本当に無理しないでよ。気分が悪くなったらすぐに俺たちに言ってね」
「はい。ルイスさんも、ありがとうございます」
「この教会はリオラドに次いでメーアレクトの力の影響が強い。今俺がこの場にいるのもあいつに把握されてるだろう。そうそうおかしな事は起きないよ。だから安心しな」
「それってつまり……ルーイ先生は女神の加護を受けていらっしゃるってことでしょうか?」
「そんな大それたもんじゃないけど、メーアレクトは俺の事が大好きだからね。悪さをするような輩がいれば……そいつは女神の力で氷漬けにされちゃうかもよ」
「……先生の美しさは女神をも虜にしているのですね。流石です」
ルーイ様は綺麗なウィンクを飛ばした。冗談めかした発言に聞こえるけど多分事実なんだろう。ルーイ様のウィンクを至近距離で受けたフェリスさんは顔を真っ赤にして悶えていた。彼女がルーイ様のノリに慣れるのにはもう少し時間が必要だ。
メーアレクト様の目が行き届いている場所なら、他国の魔法使いなどに邪魔をされることもなさそうだ。怪我の痛みが落ち着いてきたばかりだというのに、ルーイ様が私たちに同行して下さった理由が分かった。彼がいることで、メーアレクト様の監視の目が更に厳しくなるからだったのか。私たちがより安全に調査ができるように気を使ってくれたのだろう。
「それにしても、よくボスがOKしたよね。姫さんには悪いけど、絶対反対されると思ってた」
「実は私も……自分で言い出したことですが、まさかレオンがあんなにあっさり許可を出してくれるなんて驚きました」
レナードさんとルイスさん……そして、ルーイ様にフェリスさんと私を含めた5人は、たった今馬車でリアン大聖堂に到着したところだった。私の要望をレオンが聞き入れてくれたのだ。
「本音は心配で堪らないし、嫌だったろうよ。それでも、ここ最近の騒動を経て色々思うところがあったんだろうな。護衛もちゃんといる。聖堂内はメーアレクトの力が及んでいるため暴力行為はできない。安全面に関しては問題ないってことで、渋々受け入れたってとこかな」
リアン大聖堂の子供たちの中に、ニコラさんを操っていた犯人がいる。さすがにこの仮説だけは皆に話す勇気は無かった。なぜなら、私が一度死んで過去に戻ってきていることやルーイ様が神さまであること……秘密にしている事情を話さなければ到底信じて貰えそうにないからだ。
「殿下は酒場の夫婦の件で手が離せませんので、我々と一緒に行動するのは難しかったですからね。聖堂内が安全であることは間違いありませんが、事件と関わりが深い場所です。決して油断されないようにして下さい」
「あの夫婦……ていうか旦那の方か。兵士にちょっと詰め寄られただけであっさりゲロったらしいね。グレッグが食い殺されるのを目の前で見てたんだもんな。いつか自分も同じ目に合うんじゃないかって……内心ビクついてたのかもね」
「詰所から離れなかったのは、心のどこかで捕らえられるのを待っていたのかもしれません。その後我々の質問にも素直に答えているそうですよ」
「奥さん側は何にも知らなかったんだって? 巻き込まないようにって一応気を使ったのかねぇ。それでも旦那が捕まるのは確定だから可哀想にな」
本日の早朝、二番隊のクレール隊長が屋敷を訪れた。彼女はレオンに命じられ、酒場の経営者夫婦を再調査していたので、その報告をしに来たのだった。グレッグの共犯を疑われていた夫婦はどうなったのか……結果は残念なことに、本人の自白により疑惑は真実となってしまったのだった。
「ニュアージュの連中がよこした情報が正しかったってことなんだよな。ニコラ・イーストンのバングルの場所が分かったのもそうだけど……あいつらのおかげと思うとなんか癪だわ」
「まあ、多少複雑だよね。でもグレッグが他国の人間である以上、私たちだけで調べられる事には限度があるもの。ノアたちに頼ったと思うのが嫌なら、ルーイ先生のおかげって思えばいいんじゃない? 先生がいなかったら向こうも情報提供なんてしてなかっただろうからさ」
「そうだよ。あいつら先生に押し負けたから、グレッグについて話したんだよな。やっぱり凄いのは先生だな」
「アルバビリスを身に付けた先生は本当に素敵でした。私もあんな先生に尋問されたら何でも話してしまいそうです。あっ、もちろん今日のお召し物もとってもお似合いですよ」
「えー、そうかなぁ。もう、みんな俺を褒め過ぎだよ。いくらほんとの事だからって……」
たくさん褒めて貰えてルーイ様は今日もご機嫌だ。でもちょっと調子に乗ってそうで心配。セドリックさんがこの場にいたら良い感じに注意してくれたかもしれないけど……彼は今レオンと一緒にお仕事の真っ最中である。
酒場の夫婦の話も気になるが、こっちはこっちで頑張らないと……レオンは私を信じて、リアン大聖堂に行かせてくれたのだから。
「ルーイ様……皆さん」
私の呼びかけに反応し、4人の視線が一斉にこちらへと向けられた。
「これから聖堂内に入ります。準備はよろしいでしょうか?」
「……はい。クレハ様」
「いつでもOKだよ」
空気が変わった。和やかに会話をしていたように見えても、こういう所はさすがだ。私も気持ちを引き締めるために深呼吸を行った。
「それでは、参りましょう」