TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「綺麗だな」



「はい……とても綺麗です」



その瞬間、樹さんは私の手を握った――

手に温もりが伝わる。



咲いてはすぐに消える儚い花火達。

その一瞬一瞬の短い命に、精一杯の思いを乗せて。



30分間のラストは、夜の空を大きく彩るたくさんの花火の競演だった。



最後の花火が消える、その瞬間を見届けて、私達は2人で空に向けて大きな拍手を送った。



「冬の花火、本当に綺麗でした。素晴らしいものを見せていただいてありがとうございました」



涙を堪えて言葉を絞り出した。

樹さんはうなづいてから、車の後部座席にあった何かを取り出して、私に差し出した。



「これ、柚葉に」



「え! 嘘っ! これを私に?」



それは、とても可愛らしい花束だった。

車の中の優しくて甘い匂い、この香りだったんだ。



「俺、女の子が何を喜ぶとか、全然わからないからセンスなくて悪い」



私は首を大きく横に振った。



「嬉しいです。とても可愛いお花。私、こんな素敵なクリスマス・イブを過ごせて、本当に嬉しいです」



「柚葉……」



樹さんが、私を見つめた。



「……?」



「いろいろ、今はまだ気持ちが定まらないかも知れない。でも、お前の気持ちが少しでも前に向けるよう……」



1度、目をそらせ、そしてまた私を見て、樹さんはゆっくりと言葉を続けた。



「俺は、柚葉を……支えたい。お前を守りたいんだ。今だけじゃなく、これから先もずっと」



「樹さん……」



「俺、柚葉が好きだ」



樹さんは、花束を抱えたままの私を抱きしめた。

精一杯言葉をつむいだ、綺麗で優しくて温かいセリフに、胸がいっぱいになる。



「柚葉と一緒にいたい。お前の笑顔をすぐ隣りで毎日見ていたい」



少し震えるような声で耳元で囁かれ、私は全身の力が抜けていくのを感じた。



「すぐに答えはいらない。柚葉の気持ちが落ち着くまで、いつまででも待つ。いつまででも……」



「……私、何ていったらいいのか……」



「今は何も言わなくていい。ただ……俺の誘いは断るな」



「誘いは断るなって……。樹さん、強引です……」



樹さんは、優しく微笑んだ。

その笑顔がとても愛おしく感じる。



「柚葉。今日から俺のことは樹って呼んでくれ。あと、敬語もいらない」



「そ、そんな急に無理です」



「じゃあ、その花束返して」



「えっ、ちょ、ちょっと待って下さい」



「だったら……樹って呼んで」



突然甘い声でねだられ、キュンとした。

こんな樹さん、初めてだ。意外な一面に驚く。



「……い、樹……」



「それでいい。俺には敬語は使うな。使ったら罰金だからな」



「そんな、罰金とかは無しですよ」



「はい、罰金」



「えっ、あっ、待って、待って下さい」



「罰金2倍」



2人だけの時間。

笑顔がいっぱいの幸せな時間。



私、樹さんに告白されたんだよね?

樹さんが私を好きだなんて、信じられるわけないけど、でも、今夜は十分楽しかった。



柊君への気持ちは、まだまだ消えない。

いつ忘れられるのかもわからない。

樹さんは、いつまでも待つって言ってくれたけど、いったいこの先私の感情はどうなっていくんだろう?



樹さんのことを好きなのか、正直それもわからない。



夜景、ハンバーガー、花火、花束、告白……

まさかのサプライズがたくさんあった今夜。

一生忘れられない思い出が、私の心の中に優しく刻まれた。

2人のあなたに愛されて ~歪んだ溺愛と密かな溺愛~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

1

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚