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「綺麗だな」
「はい……とても綺麗です」
その瞬間、樹さんは私の手を握った――
手に温もりが伝わる。
咲いてはすぐに消える儚い花火達。
その一瞬一瞬の短い命に、精一杯の思いを乗せて。
30分間のラストは、夜の空を大きく彩るたくさんの花火の競演だった。
最後の花火が消える、その瞬間を見届けて、私達は2人で空に向けて大きな拍手を送った。
「冬の花火、本当に綺麗でした。素晴らしいものを見せていただいてありがとうございました」
涙を堪えて言葉を絞り出した。
樹さんはうなづいてから、車の後部座席にあった何かを取り出して、私に差し出した。
「これ、柚葉に」
「え! 嘘っ! これを私に?」
それは、とても可愛らしい花束だった。
車の中の優しくて甘い匂い、この香りだったんだ。
「俺、女の子が何を喜ぶとか、全然わからないからセンスなくて悪い」
私は首を大きく横に振った。
「嬉しいです。とても可愛いお花。私、こんな素敵なクリスマス・イブを過ごせて、本当に嬉しいです」
「柚葉……」
樹さんが、私を見つめた。
「……?」
「いろいろ、今はまだ気持ちが定まらないかも知れない。でも、お前の気持ちが少しでも前に向けるよう……」
1度、目をそらせ、そしてまた私を見て、樹さんはゆっくりと言葉を続けた。
「俺は、柚葉を……支えたい。お前を守りたいんだ。今だけじゃなく、これから先もずっと」
「樹さん……」
「俺、柚葉が好きだ」
樹さんは、花束を抱えたままの私を抱きしめた。
精一杯言葉をつむいだ、綺麗で優しくて温かいセリフに、胸がいっぱいになる。
「柚葉と一緒にいたい。お前の笑顔をすぐ隣りで毎日見ていたい」
少し震えるような声で耳元で囁かれ、私は全身の力が抜けていくのを感じた。
「すぐに答えはいらない。柚葉の気持ちが落ち着くまで、いつまででも待つ。いつまででも……」
「……私、何ていったらいいのか……」
「今は何も言わなくていい。ただ……俺の誘いは断るな」
「誘いは断るなって……。樹さん、強引です……」
樹さんは、優しく微笑んだ。
その笑顔がとても愛おしく感じる。
「柚葉。今日から俺のことは樹って呼んでくれ。あと、敬語もいらない」
「そ、そんな急に無理です」
「じゃあ、その花束返して」
「えっ、ちょ、ちょっと待って下さい」
「だったら……樹って呼んで」
突然甘い声でねだられ、キュンとした。
こんな樹さん、初めてだ。意外な一面に驚く。
「……い、樹……」
「それでいい。俺には敬語は使うな。使ったら罰金だからな」
「そんな、罰金とかは無しですよ」
「はい、罰金」
「えっ、あっ、待って、待って下さい」
「罰金2倍」
2人だけの時間。
笑顔がいっぱいの幸せな時間。
私、樹さんに告白されたんだよね?
樹さんが私を好きだなんて、信じられるわけないけど、でも、今夜は十分楽しかった。
柊君への気持ちは、まだまだ消えない。
いつ忘れられるのかもわからない。
樹さんは、いつまでも待つって言ってくれたけど、いったいこの先私の感情はどうなっていくんだろう?
樹さんのことを好きなのか、正直それもわからない。
夜景、ハンバーガー、花火、花束、告白……
まさかのサプライズがたくさんあった今夜。
一生忘れられない思い出が、私の心の中に優しく刻まれた。