柚葉に告白したんだな、俺――
マンションまで送り届けて、帰る車中、さっきまでの出来事を思い返していた。
あいつはまだ、柊への想いを断ち切れないでいる。
それは痛いほどわかってる。
そんな時に告白するのがズルいことも。
それでも俺は、正直に柚葉に想いをぶつけた。
そこには俺なりの責任と覚悟があった。
2人で敬語なしで話せるようになって、あいつ、今日のことを喜んでくれた。
笑顔の柚葉が愛おしく思えた。
柊のことで苦しむあいつを見てるのは、本当につらかったから。
こいつを守りたい、ずっと一緒にいてやりたいと――本気でそう思ってた。
柚葉の心の中には兄の柊がいて、そして、その柊を、俺は家族として大事に思ってる。
そんな複雑な状況も、今の俺にはどうしていいのかわからなかった。
でも、柚葉への想い、それだけは、これから先も決して変わることはないと断言できる。
俺が柚葉を初めて知ったのは、柊からの手紙に同封された2人の写真を見た時だ。
2人が付き合って、1年が経った頃だったと思う。
写真の中の2人は本当に仲が良さそうで、笑顔が溢れたその写真を見て、俺は本当に嬉しくなった。
柊のこと、ずっと心配してたから……
アメリカに行ってからは、柊の女性関係について全く知らなかった。
でも、ようやく大切に思える女性ができたんだって――心から喜んだことを今でも鮮明に覚えてる。
それから、時々電話やメールで柚葉のことを聞いていた。
柊がアメリカに来た時も、本当に嬉しそうに柚葉のことを話していた。
柊は本気で彼女を愛してるんだと思った。
「柚葉って、本当に可愛いんだ」
「そっか。たとえばどういうとこ?」
「そうだな。まあ、見た目もだけど、やっぱり中身がいいよ。優しくて穏やかなんだ。いつも彼女の笑顔に癒されてるよ」
そんな風に、嬉しそうに柊が言ってた。
だから、絶対に、柊は柚葉だけを想ってるんだと信じていた。
昔から、どうやったら柊みたいに人を素直に好きになれるのか、ずっと不思議だった。
俺は、誰を見ても、誰と話しても、誰と2人きりになっても、全く恋愛感情が持てなかった。
告白は時々されてたし、その中の2人とは付き合ったこともある。ちゃんと好きになりたかったし、好きになれるよう自分なりに努めた。
相手を精一杯大事にした。
だけど、ドキドキしたり、胸が苦しくなるような気持ちには……どうしてもなれなかった。
ただの恋愛ごっこでしかなく、結局は別れがやってくる。
たまに柊にも相談はしてたけど、どんなアドバイスを受けてもうまくはいかなかった。
気がつけば、いつしか恋愛することがわずらわしくなって、自分は人を愛せない、それこそ病気なんだって思った。
それなのに……
柊から話を聞く度に、なぜか間宮 柚葉という会ったこともない女性に興味を持ってしまって……
柚葉の話を聞くと、勝手に胸がドキドキした。
彼女を知って数ヶ月した頃、俺は、以前もらってた柊と柚葉の2人の写真を手に取った。
ずっと引き出しの中にしまってあった写真。
俺は、それを半分に切って、柊の方は封筒にしまい、柚葉が写る方だけを部屋のコルクボードに貼り付けた。
不思議で仕方なかった。
俺は何をしてるんだって……
柊の彼女だとわかっているのに、写真の中の柚葉の笑顔にどうしようもなく惹かれる自分がいた。
一生、人を好きになることなんてないと思ってたのに……
時には心が痛くなったり、苦しかったり、まだ見ぬ彼女への想いが日に日に募っていった。
俺は……
そうやって、大切な兄弟である柊のことを裏切っていたんだ――